猫国編8
「ヒカル様」
と黒い模様の入っている猫が言った。
「え?」
「ヒカル様ですよね?」
ともう一匹の灰色の猫が言った。
「誰?」
「はじめまして、私達はチャイ様の…」
「チャイ!チャイを知ってるの!?チャイは今何処にいるの!?無事なの!!??ねぇ!!??」
と僕は、まくし立てた。
「ヒカル様、落ち着いて下さい!」
灰色の猫が言った。
「だって!!」
「チャイ様は御無事ですよ。猫国へ戻っております」
「猫国って?」
「チャイ様から、お聞きしてないんですか?」
「聞いてないよ、猫国って何?」
二匹の猫は僕の発言に驚き、
「じゃあ、今まで何も?」
と言った。
「何?どういう事?」
僕は二匹の猫に、
「君達は何者なの?」
と聞いた。
「僕達は兄妹で、チャイ様の側近です。僕は兄のチェキといいます」
と黒い模様の猫が言った。
「私は、妹のべキと言います」
と灰色の猫が言った。
「チャイ様は猫国の王子で、二年前にヒカル様と婚約されていました」
ベキの言葉は、僕の脳裏に衝撃を走らせた。
「え?」
「ヒカル様、あなたは本当は白い雌(女)の猫なのです」
チェキの言葉が、脳裏に更なる衝撃を走らせた。
「ウソ・・・でしょ?だって」
「本当です。ヒカル様は二年前にチャイ様と結婚を約束された日にさらわれて、薬をかけ。薬をかけられ、人間の男の子になったのです。なのでヒカル様は本来、猫国にいた白い雌猫です」
「待って、猫国って?」
「ああ、そうですね。猫国とは選ばれた猫だけがいる国、私達みたいに人間と話す事が出来たり、字を読めたり、字が書けたり、色んな物を作れたりする能力の高い猫が集まった国です」
「え?じゃあ、普通の猫は…」
「ここの人間界に住んでいる猫達は、人間の言葉を話したりする事は出来ません。私達とここの猫同志の会話は可能ですが、もう千年以上前から人間界の猫と猫国の猫とは、種別や遺伝子が別れていています。その決定的な違いとして、能力はさる事ながら、我々の手の肉球はこの様に金色に光っております」
と言ってベキは前足をヒカルに見せた。確かにべキの肉球は金色に輝いていた。チェキも同じ様に前足を見せた。
チェキも同じ金色だった。
「そして、猫国の猫は猫国にのみ住み、人間界の猫は人間界にしか住む事が出来ませんし、交わる事も出来ません。本来なら、ここに来る事も許されないのですが、緊急事態の為、ここに参上させて頂いております」
話の途中でヒカルは自分の右の掌を見た。
そこには、二匹の猫が見せてくれた金色の肉球と同じ色のシミが二つあった。
それを見たチェキとべキが、顔を見合わせて頷き、
「少し、思い出されてきた様ですね」
とべキが言った。
「思い出す?」
「さっきお話した、ヒカル様を人間にした薬は、我が国の古い薬屋にあったものなんですが、何者かが薬とそれにまつわる本を盗み出し、ヒカル様に使った様です。その薬をかけられた猫は人間になり、性別も変えられ、全ての記憶が消されてしまうのですが。これを作った者が、この薬を悪用する者がいるかもしれないと、完全には作らなかった様です」
「え?」
「二年経つと徐々に記憶が戻り、戻る度に手に金色の肉球の模様が出来始めます。全て思い出したら肉球の形になり、猫国へ出入りする事が出来るみたいです」
「ええ?でも思い出すったって…」
「何か心当たりは無いですか?」
とべキが言った。
「そういえば最近、白い猫になった夢を何回か見た」
とべキが言った。
「間違いないです」
とチェキが言った。
「そうだったのか?だからこんな」
僕は掌のシミを見た。
「それで、僕は・・・いつ猫に戻るの?」
「いいえ、このままでは戻らないみたいです。今、猫に戻る方法を私達の祖母ボキ婆が調べているので、もう少しお待ち下さい。必ず突き止めます」
とべキが言った。
「分かったよ。ありがとう」
と僕は言った。そしてベキが僕の様子を伺いながら。
「あの、ヒカル様、私達がこんな事を言うのも何なんですが、チャイ様と何か・・・?」
「・・・ただのケンカだよ」
「そうですか」
と言って、全員沈黙した。
「そうだ、僕の両親は…元気にしてるの?」
僕は聞いてみた。
「あ、はい、お身体はかろうじてお元気にされてますが、ずっとずっとヒカル様を心配してらして、毎日とても寂しそうに暮らしてらっしゃるとお聞きしています」
「そっか」
と言って再び沈黙した。
「では、とりあえず私達はこれで」
「ああ、うん、ありがとう」
と言って、二匹の猫は窓から出て行った。
部屋で一人になると、前にも増してボー然となった。
僕が本当は猫?
しかも白い雌(女)の猫で、チャイの婚約者?
薬をかけられて人間の男の子になった?
僕は自分の右の掌を見ながら、
「ありえない、ありえない、ありえないよー!!!」
と拳をグッと握り、何度も叫んだ。




