猫国編6
花火大会から家に帰ると、部屋の窓辺でチャイとビビが寄りそう様に並んでいた。
ビビはチャイの身体にもたれかかりながら、
「花火、綺麗でしたわね。チャイ様」
「ああ、見れて良かった。ここなら静かに見れると思って」
「ありがとうございますチャイ様。私、チャイ様と二人で見れて本当に幸せです」
「そうか、それはよかった」
と二人で話していた。
僕はビビの声を聞いた途端に思い出した。
あの夢の中の黒い影と同じ声だ!
その瞬間、嫌悪感と憎悪が湧きおこり、気がつけば思いっきりビビを睨んでいた。
ヒビは僕に気づき、ニヤリと微笑んで、
「あらーヒカル様、お帰りなさい。デート楽しかったですか?」
と言った。
「はい」
僕は簡単に答えた。
「それは良かったですわね。あら、綺麗な金魚だこと」
ビビは微笑んだまま言った。
「おお、本当だ。ヒカルお帰り」
とチャイが言った。
「ただいま」
鞄を下ろし、そのまま下に行って洗面器に金魚を移した。
「ではチャイ様、私はこれで」
僕が戻ると、ビビが言った。
「じゃあ、そこまで」
「一人で大丈夫ですわ。ヒカル様も御機嫌よう」
と言って去って行った。
「送って行けばいいのに」
僕は呟いた。
「え?」
「僕の時は『送って行け』って、あんなに怒ったくせに」
「何言ってんだよ」
「あんな綺麗な猫、他に取られちゃっても知らないよ…」
「お前どうしたんだ?」
僕は頭を抱え、首を振り、
「だめだ・・・ちがう、送っちゃだめ」
「ヒカル?」
僕はチャイの目を見た。
「ビビは、やめた方がいいよ」
「…」
「絶対にだめ」
「何でだよ?」
「何一つ・・・良い所無いから」
「は?」
「見た目以外良い所なんて、何一つ無い黒猫だよあれは!」
「は!?何でお前にそんな事言われなきゃいけないんだよ!」
「だってビビが初めて僕を見た時、凄い顔で睨んできたし、さっきも勝ち誇った様な顔してさ、チャイの前では良い顔してるけど、裏表のある、きっと弱い者いじめとかしてる最悪の猫だよあれは!」
「ビビがそんな事する訳ないだろ!!」
「してるよ!!!」
「する訳ないだろ!ビビは小さい時からずっと一緒にいて、俺の事よく分かってくれてる大事な奴なんだ!なのにそんな事言うなんて、ヒカルでも許さないぞ!!」
「構わないよそんなの!!! 僕はビヒが大嫌いだ!!!」
二人は沈黙した後、
「フン、猫の事なんか何もわからないくせに、人間が猫の悪口言うんじゃねーよ」
チャイはボソっと言った。その言葉に僕はカチンときて、
「僕が人間じゃ・・・言っちゃ駄目なの!?」
「ちょっと自分は人間で、彼女までいるからって偉そうに悪口言うんじゃねーって言ってんだよ」
「自分だって猫のくせに、今まで人間の僕にさんざん偉そうに言ってきたじゃん!」
「お前が何も出来ねーからだろ!!」
「出来るよ!猫のチャイなんかより何でも出来るよ!」
「出来なかったじゃねーかよ!俺にコソコソ女の事探らせたりして、一人じゃ何も出来なかったくせに!!!」
「出来たよ!チャイなんか居なくても、美咲ちゃんは僕の彼女になってたよ!!美咲ちゃんは初めて会った時から僕の事好きだったんだもん!!」
「そんな訳ないだろ!!」
「あるよ! この前本人から聞いたもん!!! 最初からチャイなんか飼わなくても良かったんだよ!!!」
「・・・あーそうですか。なら出て行くよ」
「いいよ、バイバイ。チャイなんか大嫌いだ」
「俺だってヒカルなんか大嫌いだよ」
と言って、チャイは窓から出て行った。
僕は机に座り、じっとしていた。
しばらくして、僕は声を上げて泣き続けた。




