猫国編5
花火大会当日、モヤモヤした気持ちのまま、待ち合わせの場所に行くと、浴衣を着た美咲ちゃんが待っていた。
白い生地に朝顔の模様の入った浴衣姿がとても可愛くて、よく似合っていて、見た途端に、今までのモヤモヤが嘘の様に消えていった。
「お待たせ」
僕が笑顔で言うと、
「私も今来たとこ」
彼女も笑顔で言った。
「浴衣、似合ってるね」
と言うと、恥ずかしそうに、
「ありがとう」
と答えたのがたまらなく可愛かった。
近くに屋台が並んでいたので、花火の時間が来るまで一緒に見て回る事になった。
(屋台を見るのは、今年のお正月に家族で合格祈願の際、神社に参拝しに行った時以来二回目だった)
金魚すくいの前まで来た時、
「私、金魚すくいやりたい」
美咲ちゃんが言って、おじさんにお金を払い、小さいボールとぽい(金魚をすくう道具)を受け取った。
「けっこう得意なんだ」
と言いながら、早速金魚を一匹すくっていた。
僕も初めてやってみたが、紙が水に濡れたと思ったら、そこからすぐに破れてしまい、一匹もすくえなかった。隣で美咲ちゃんは、4匹の金魚をすくっていた。
「すごいね、美咲ちゃん」
と僕が感心しながら言うと、
「昔は、もっといっぱいすくえてたんだけど、腕落ちたな」
「そうなんだ」
「いつも10匹位は、すくえてたんだよ」
「ええ、そうなの?」
「うん」
と言っておじさんに、ボールとぽいを返し、
「おじさん、袋二つに分けてくれませんか?」
と言った。
「はいよ」
とおじさんは、二つの袋に2匹づつ金魚を入れて美咲ちゃんに渡した。
「はい、あげる」
美咲ちゃんは、僕に金魚を差し出した。
「え?いいの?」
「今日の記念」
と笑顔で言ってた。
「ありがとう」
と受け取った。そして再び、りんごあめや、たこ焼き、スーパーボールすくいやミルクせんべい等を、話しながら見て回った。夜の屋台はとても明るくて、キラキラして見えた。
輪投げの前に来た時、美咲ちゃんが、
「これ可愛いね」
と猫のキーホルダーを指差して言った。
僕はすぐに、
「おじさん、一回やります」
と言って、お金を渡し3本の輪っかを貰った。
しかし、輪投げは未経験だったので、中々入らず、すぐに終わった。
「おじさん、もう一回」
と言って再チャレンジしたが、これも上手くいかず、3本の輪っかは失くなった。
「もう一回」
「ヒカル君、もういいよ」
と美咲ちゃんが言ったが、
「絶対取ってみせるから」
僕は言い、気合いを入れて必死に投げた。すると3回目で見事に成功した。
「やったー!!」
二人で声を上げて大喜びした。
「おめでとう」
と言って、おじさんがキーホルダーを渡してくれた。
「ありがとう」
と僕は受け取り、
「はい、今日の記念」
と言って彼女に渡した。
「ありがとう」
と本当に嬉しそうな顔をして受け取ってくれた。この笑顔を見れるなら、僕はどんな事でもしたいと思った。
花火の時間が迫って来たので、よく見える場所まで移動した。目の前には海も見えた。僕は海を見ながら、
「美咲ちゃん、僕ね」
「うん」
「僕も将来、通訳を目指そうと思うんだ」
「え?」
「僕、将来の夢なんて今まで一度も考えた事無かったんだけど、この前、美咲ちゃんの夢の話を聞いた後…僕もこの海を越えて色んな世界を見てみたくなったんだ」
「ヒカル君」
と美咲ちゃんが言って、
振り向いた僕に口づけした。
花火が夜空に大きく奇麗に咲いた。
「ずっと一緒に頑張ろうね」
彼女は言った。
僕も彼女に口づけした。
様々な色の花火がいつまでも夜空を美しく彩っていた。
この時間がずっと続いて欲しいと僕は願った。