猫国編4
家に帰ると、チャイの隣にもう一匹猫がいて、ヒカルの机の上に乗っていた。
真っ黒で艶のある毛並みに、大きな瞳が青く輝く美しい黒猫だった。
「お帰りヒカル、こいつ俺の幼馴染でビビって言うんだ」
「ビビと申します。よろしくお願いします」
と頭を下げてきたけど、僕を見た一瞬、大きな瞳で睨んできた気がした。
その瞬間、とても嫌な感じがした。
「…ああ、こちらこそ。ていうかチャイうちは…」
「チャイ様からお聞きしております。
ヒカル様のお母様が大の猫嫌いだとか。私は他にお家がありますので、今日は御挨拶に伺いました」
「御挨拶?」
「はい、時々こうしてここにも伺う事があると思いますので、その時はよろしくお願いいたします」
「ああ、はい」
「では、もう暗くなりますので、私はこれでお暇させて頂きます」
「送って行く」
「チャイ」
思わずヒカルは言った。
「いえ一人で大丈夫ですわ。それでは御機嫌よう」
と言ってビビは窓から出て行った。
「チャイ、あの猫、ほんとに幼馴染み?」
「おお、幼馴染だぞ」
「ほんとに?」
「おお」
「…」
「何だよ、どうかしたのか?」
「…何でもない。お母さんにはこの事内緒にしとくね」
「おお」
「お風呂入ってくる」
と言って僕は部屋を出た。
お風呂に入っても頭を洗っても、湯船に浸かっても落ち着かない。
何だかモヤモヤする。
あれは僕を睨んでたと思う。
でもそれもそうだけど、何だろうこの気持ち。
チャイとビビが二匹揃って机にいた時、何とも言えない気持ちになった。
あれはただの幼馴染じゃない、恐らく…。
僕は大きく首を振り、
「ああー!なんなんだ!?」
と言いながら湯船から上がり、自分の身体を鏡で見た。
人間の16歳の男子がそこに写っている。
そうだ、僕は人間なんだ。
また奇妙な夢を見た。
まるでお城みたいな部屋の一室で、チャイと一緒にいた。
「俺の嫁になってくれ」
とチャイに言われた。
しかし僕はまた白猫の姿だった。
「俺の嫁になれる奴は、お前しかいないんだ!」
「私も、ありがとうチャイ」
と僕は笑顔で答え、チャイの傍へ行き二人で寄り添い、そのまま眠った。
実に長く眠った。
眠っている途中に、うっすらと瞼の外に、黒い影が現れ、
「よく眠ってるみたいね。さようなら、ヒカル」
と言われた。
目が覚めてトイレに行った後、手を洗うと、右の掌の金色のシミの下に、更に大きなシミが出来ていた。




