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チャイと時枝ヒカル君  作者: 河村諭鳥
12/28

猫国編3

「ヒカルが、少し思い出したみたいです。さっき部屋の前でチャイと話してるのを聞きました。右の掌にも小さな金色の丸いシミの様な物が出て来ている様ですし…」


誰もいない家の中、ヒカルの母は、父親の仕事部屋で何かと話していた。

しばらくすると黒い猫が、時枝家の玄関の隙間から、こっそりと出て行った。



「チャイ様ー!」


 次の日、川辺を歩いているチャイを黒い猫が呼び掛けた。


「ビビ?」


とチャイが振り返った。


「どうしたんだよ?なんでここにいるんだ?」


と驚いて言った。


「チャイ様、随分探しましたのよ」。


「そうなのか?」


「はい、チャイ様が突然いなくなってから、チャイ様の事が心配で心配で。チェキとベキからヒカル様が人間の男の子になって、人間として暮らし、チャイ様も人間界へ行ったと聞いて、私も思わず来てしまいました」


「あいつら」


「チャイ様! チェキとべキを叱らないで下さい! 私が、チャイ様をあまりに毎日心配してるのを不憫に思い、二人が話してくれたんです」


「この事誰かに・・・」


「話しておりません。チャイ様、王様も王妃様も心配しております。今何処に住んでいるんですか?」


「ヒカルの家だよ。俺は今、ヒカルに飼われている。でもヒカルのかーちゃんが、猫大嫌いらしいから、俺を飼う時、随分別対されたんだけど、ヒカルが説得してくれて、かーちゃんを俺に近づけない事を条件に飼う事が許された。なので俺は二階のヒカルの部屋の窓から出入りして、ヒカルの部屋以外はウロウロする事は出来ない。餌とかの世話も全部ヒカルがやってくれてるんだ」


「おいたわしい事です。猫国の王子ともあろう御方が」


「はは、そうだな・・・でも、そろそろ帰ろうか迷ってるんだ」


「そうなんですか?」


「ああ、ヒカルは人間の家族に大切にされてるし、友達もいるし、恋人までいるんだ。この前、チェキとベキがヒカルを元に戻す方法が見つかりそうだって言ってた。でも幸せそうなあいつ見てると、このまま人間として生きるのも悪くないんじゃないかなって」


チャイは下を向いて言った。


「チャイ様、私にチャイ様のお手伝いをさせて頂けませんか?」


「え?」


「私、チャイ様のお力になりたいんです。お願い致します」


ビビはチャイを見て言った。



 8月に入った頃、僕はほとんど毎日図書館に通い、美咲ちゃんと勉強していた。中学英語の問題集も、もう3順目に入り、覚えた英単語の数は1000を超えていた。図書館の帰り道、


「そろそろ中学英語も卒業だね」


と美咲ちゃんが、僕の自転車の後ろに乗りながら言った。


「うん、僕、英語好きになったみたい」


「ほんと?」


「うん、美咲ちゃんのおかげだよ、ありがとう。美咲ちゃんも英語好きだよね」


「うん、私ね、将来通訳になりたいの」


「通訳?」


「うん、通訳になって、外国に行って、色んな人達に会って話してみたいの」


「へぇーじゃあ大学は、外大とか目指してるの?」


「うん。語学が充実してる大学に行きたいなと思って」


「へぇー、前から思ってたんだけど、美咲ちゃんてさ、何でうちの学校入ったの?」


「え?」


「美咲ちゃんなら、もっと上の高校にも入れたんじゃないかと思って」


美咲ちゃんが黙ってしまったので、僕は慌てて振り向き、


「あ、話したくなかったらいいんだけどさ」


と言った。


「私、本当はもっと上の高校に行きたかったの、成績も良かったし、自信もあったし。でも受験当日に急に緊張してきて、胸が苦しくて息が出来なくなっちゃったの。それでも頑張って何とか試験受けたんだけど、全然出来なくて、結局落ちちゃって、今の高校に行く事になったの。ショックで中学卒業して春休みずっと家にき込んでたんだけど、TVで海外の特集やってて、海外とその現地の人達が交流してるのを見た時、ああ、まだまだ私の知らない世界が広がってるんだなって、こんな所へ行けたらどんなにいいだ ろうなって思って」


「それで英語を?」


「うん。海外の人と話してみたいし、まずは英語から勉強して、通訳になれば、色んな国の人達と話せるなと思って」


「へーいいね。すごい夢だね」


「こんな事、人に話したの初めて」


「そうなの?」


「うん、ヒカル君になら話してもいいかなって。私ね、実は入学した時からヒカル君の事がずっと気になってたんだ」


「え?」


僕は驚いて言った。


「だから話せるきっかけが無いかなと思ってて、ヒカル君が、あの日、お昼のパンのお金忘れ時、後ろで見てて『これだ!』って思って、すぐにお金渡したの」


僕は、胸がドキドキしながら話の続きを待った。


「でも教室では話せないし、それに勉強もあるからそんな事してる暇ないなって思ってて、ずっと勉強ばかりしてたら、ヒカル君と図書館で会えて、本当に嬉しかった」


そう言いながら美咲ちゃんは、僕の背中にもたれた。


「来週の花火大会楽しみだね」


「うん」


僕の背にもたれたまま美咲ちゃんは言った。


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