猫国編2
その日の夜、僕は奇妙な夢を見た。
僕が白い猫になり、広い草原を走っていると、
「ヒカルー!ヒカルー!」
と声が聞こえてきたので、立ち止まり振り向くと、チャイが僕の所にかけつけた。
「チャイ? どうしたの?」
僕が聞くと、
「どうしたの? じゃねえよ、お前どこ行ってたんだ。随分探したんだぞ」
「心配性だなー」
と僕は言った。
「もう黙ってどこにも行くんじゃねえぞ」
とチャイが真顔で言った。
「はいはい」
と僕は笑った。
目が覚めると、ベッドの上だった。
「変な夢」
とつぶやき、僕は美咲ちゃんからの連絡が来てないかと、携帯を取ろうとした時、
右の掌に5ミリ幅位の、丸い金色のシミが付いている事に気づいた。
「何これ?」
とつぶやき、手でこすってみたが落ちる気配が無い。
全く身に覚えが無いので、どこかで付いたんじゃないかと思い、後で石けんで洗う事にし、携帯を手に取って見た。
『昨日はとても嬉しかったです。ありがとう』
と連絡があり、昨日の出来事が夢じゃなかった事が証明され、最高の気分に浸りながら、
『僕もとても嬉しかったです。ありがとう』
と返信した後、一階の洗面所で顔を洗った後、石けんで掌をこすりながら洗っていると、
「何してるの?」
とお母さんがやって来た。
「掌にペンキが何か付いちゃって、なかなか落ちないみたい」
言いながら、お母さんに掌を見せると、
お母さんは顔を強張らせた。
「お母さん?」
「・・・これはちょっと落ちにくそうね。でも気にしなくていいんじゃない?あ、お湯沸かしたままだったわ」
と慌てて台所へ去って行った。
その後、何度洗っても、色々試しても結局シミは落ちなかったけど、もうテスト休み入ってるし、夏休みも始まるから、学校の人間に会う事はほとんど無いので、その内消えるだろうと気にしなくなった。
それからテスト休みが終わり、期末テストが返却された。
英語は人生初の80点越えだった。
でも今回は、他の教科も、前より点が上回り、担任の先生にも褒められ、思わず美咲ちゃんの方を見そうになった。
そして、そのまま終業式を迎えた。
「ヒカル、成績すげー上がったんだな」
自転車で帰りながら、勇太が言ってきたので、
「うん、ちょっと勉強張り切ってみたんだ」
と答えた。
「すげーな、夏休みも勉強するのかよ」
「うん、もっと頑張ってみようかなと思って」
「そうか、なら良かったかも」
「え?」
「俺、夏休みはバイト増やそうと思ってて」
「そうなの?」
「うん、原付バイク欲しいんだ」
「へぇーいいね」
「でも原付高えし、だったらバイト三昧になるから、夏休みはヒカルと遊べねーなーと思って」
「あーそっかー」
「でもまあ勿論遊べる日もあると思うから、また連絡くれよな」
「うん」
「じゃあな、勉強頑張れよ」
と勇太は手をあげた。
「じゃあねー!」
と僕も手を挙げて別れた。
部屋に着くと、
「美咲ちゃーん、美咲ちゃーん」
と言いながら、美咲ちゃんにテストの結果とお礼の連絡をした。
チャイは、爪研ぎをしていた。
『よく頑張ったね!おめでとう』
すぐに返信が来た。
そして夏休みは、二人で予定を合わせ、図書館で勉強しようというやり取りをした。
僕はニコニコして、携帯をいじりながら、
「そういえばさあ、僕、最近変な夢見たんだよね」
と爪を研いでるチャイに言った。
「変な夢?」
チャイは爪を研ぎながら言った。
「うん、僕が白い猫になっちゃって、草原を走ってるんだ。そしたらチャイが僕の事呼んでるから、立ち止まって振り返るとチャイに『黙っていなくなるな!』って怒られて」
チャイの、爪を研ぐ動きが止まった。
「変な夢だよね、僕が猫だなんてありえないよ、本当に」
と言うと、チャイは無言で窓の方へ向かった。
「チャイ?」
顔を上げて呼んだが、そのまま窓から出て行った。
「変なの」
僕はつぶやき、再び携帯をいじった。




