第一話 護衛騎士
「...朝か。」
「おーいギルダ。らしくねぇな、この時間まで寝てるなんてよ。」
俺の名はギルダ•オールドスタイン。ここゼルディビア王国の訓練兵だ。今はこの駐屯地にこいつヴァナナと暮らしている。
「そういや今日の俺の髪、艶がいつもよりあるきがしねぇか?」
ニヤニヤ口角上げながらヴァナナはそう言った。彼の髪型は少し奇抜で長い髪をたばねていくつか房をつくりスラリとながしている。確かに髪の質はいいが俺からすればバナナにしか見えなかった。
「いつも思うがお前つっこんでほしいのか?」
「え?」
「いやだって、ほらお前の髪、バナナじゃん。」
「...」
「何で黙るんだ?そうじゃないの...」
「ウルセェよ!!お前のせいでガキの頃のあだ名が“バナナ”だったの思い出しちまったろうが!!トラウマなんだぞ!!」
「お、落ち着け。ヴァナナ。」
「なんかいったか...?」
「い、いやちゃんと“ば”じゃなくて“ヴァ”っていったぞ!」
「フン。まあいいバナナ奢れよ。」
何なんだこいつは。やっぱりねらってるだろ。
「まあいいか。とりあえず訓練行くか。」
「ああ。そうだな。」
落ち着いたようでよかった。ヴァナナは熱しやすくて冷めやすい。それはつまり怒りやすくて落ち着きやすいということだ。とりあえず俺らは着替え訓練所に向かった。しかし俺の寝坊が相まって時間が迫っていた。
「おいギルダ!急げ!」
「ああ...すまない!」
何故だか今日は倦怠感のようなものを朝から感じていた。いったいなにが原因か考える暇は今の俺らには無かった。チェーンメイルの上に重くずっしりとした鎧を着て俺らは訓練所に向かった。
バンッ!!
強く訓練所の扉を押し開けた。
「ん?誰だ!」
力強い目力と視線を感じる。騎士長がこちらを見ていた。
「ギルダ•オールドスタインです!!訓練に遅れてしまい申し訳ございません!!」
「ギルダ..?おまえが遅れるとは...まあいいそれよりも...」
そういうと彼女は俺の後ろに目を向けた。
「貴様の報告はまだ聞いてないな...ヴァナナ!!」
そういうとヴァナナは驚きながらも少し嬉しそうに
「申し訳ありませんでしたっ!!」
と、いつも以上に声をあげていった。
「まあいい。2人とも!訓練の準備をして訓練を開始しろ!」
「「はい!!」」
そうして俺らは訓練を始めた。すでに基礎的な訓練はほとんど終わっていて俺は実戦的な訓練をし始めた。
「ヴァナナ。一緒にやろう。」
「あ?いいぜ。同じ遅刻組として仲良くしよーぜ。」
「?」
何故か彼は上機嫌だった。そういえばさっきの説教少し嬉しそうにしていた...まさか。
「お前って厳しくされるのが好きな...」
「いやちげーよ!!勘違いされるだろうが!!」
「じゃあ何でだ?」
そういうと彼は少し照れくさそうに
「い...いや。騎士長サマに名前を覚えられていると思わなくて...」
なるほど。そういうことか。
ゼルディビア騎士団騎士長リヴィア。彼女は歴代初の女性騎士長であり最年少で騎士長になった人だ。彼女のその圧倒的な力とカリスマ性、そしてその美貌で騎士団全員から尊敬されている。まさに皆の憧れである。それは騎士団の間だけでなく民間人からもおなじ思いを寄せられている。
もちろんこの俺も騎士長のことは尊敬している。
「まあいい、いくぞ。ヴァナナ。」
「おお。こいよ!」
バアン!と訓練用の木刀がなる。
「腕を上げたな!ヴァナナ!」
「おうおう。オメーに言ってもらえるとはうれしいゼェ。ギルダ!」
「...」
そんな俺たちの訓練を誰かが見ていた。
「あのもの。なかなかいい太刀筋じゃないか。」
「ローネイ様もそう思いますか?」
「名前は何じゃ?あの金髪の小僧の。」
「彼の名はギルダ•オールドスタインです。訓練兵ですが実戦に放り込んでも問題ないほどの実力者です。」
「ギルダ...ですって?」
「何じゃ小娘。お前も気になるか?あの小僧が。」
「はいっ!気になります!だって彼は...私の幼馴染ですもの!」
「へぇ...奇妙な巡り合わせね...。まあいい。ワシは誰でもいいんじゃ。小娘とリヴィア。お主らで決めるがいい。」
「では...!!」
数時間後
「訓練終わり!全員解散!」
訓練が終わった。今朝の倦怠感は訓練中に吹っ飛んだがそれとは別に疲れた。
「やーっと終わったゼェ..!帰るぞー。ギルダ。」
「待て」
「「!!」」
急に騎士長に声をかけられた。今朝ぼ遅刻のお叱りだろうか。
「ギルダ、お前に用がある。この後王室に来い」
「王室...ですか!?」
どうやら説教ではなくもっと大きな話のようだ。
「私は先に行く。少し休んでから来い。」
「...はい」
俺だけが王室に?しかも俺だけ...それに騎士長室でもない。いったい何故?考えてもわからない。
「んだよー。お前だけかよ。...まあ頑張れよー。騎士長直々の命令なんだしさー。」
「...わかった。」
俺は王室に不安を抱えて行った。
王室の前は城のどこよりも威圧感があった。俺は今からここに入るのか...。
ギィィィィ...
重い鉄の扉を開けるとそこには3人の姿がいた。
「来たか。ギルダ•オールドスタイン」
「騎士長の命令により!ただいままいりました!」
俺はスッと敬礼をした。
「ほーう。礼儀はなっているようじゃの。」
「ギルダ!久しぶり!ずいぶん真面目になったねー!」
2人の女性が俺に声をかけてきた。中央の椅子に座っている人は知っている。彼女はライラ•ゼルディビア。ここゼルディビア王国の王女だ。
「いつぶりだろうねー!わたしたち!」
彼女とは幼い頃によく遊んでいた。が、成長するにつれて王女である彼女とは距離ができてしまい話すこともできなかった。思わぬ再会に少し涙腺が熱くなる。
「ライラ...王女。お久しぶりです。」
「もーう!いいのよライラで!そんな堅苦しくしないで!」
「王女様。そろそろ本題に。」
「あら、そうね...。楽しい話はまた今度にしましょ。ギルダ、単刀直入に言うわ。」
ゴクリと息をのんだ。
「私の護衛騎士になって!!」
「...!護衛騎士...ですか?」
「ここから先の説明はワシがしよう。」
さっきから気になっていた。少女がそう言った。
「待ってくださいローネイ様。貴方の紹介もまだです。ここは私が。」
「む、そうか。ならお前に任せる。」
「ギルダ。今は混乱しているだろうが話を聞いてくれ。お前は王女様の護衛騎士となり私と大賢者ローネイ様と王女ライラ様と共に異世界に行って欲しいのだ。」
異世界!?話が跳躍しすぎている。俺には理解出来なかった。
「むう。混乱しているようじゃの。まあ無理もない。人は聞き馴染みのない言葉をそう簡単に飲み込めんのじゃ。」
「あの...そもそも何故俺を?遠征なら大人数で行くものでは?」
「馬鹿者。行くのは異世界。ココとは大きく異なる場所じゃ。行くにはワシの力が必須。大人数だとワシの負担にもなりもし全滅した時のリスクも高い。じゃから少数精鋭で行くんじゃ。」
「ギルダ。お前は私と王女様の推薦だ。お前には能力もある。」
「ライラが...?」
そう言うとライラは顔をキラキラさせて行った。
「うん!この異世界旅行は私の修行なの!だから私が1番信頼してる人と行きたいの!」
「1番...信頼...!?」
「もう言葉はいらんようじゃの。それとも何じゃ?小娘とはいえ王女にここまで言わせておいて断る気か..?」
「...」
正直何が何だかわからない。自分が適任とはとても思えない。
でも、彼女の...ライラのキラキラした顔を見て断ることは俺の頭には無かった。
「行きます!ギルダ•オールドスタインの名にかけ!責務を全うします!」
「決まりじゃの。」
「そうですね。」
「エヘヘ。よろしくね!ギル!」
久しぶりにその呼ばれ方をした。
「...ああ!」
こうして俺の物語は始まった。