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迎撃艦隊

 私の存在は偶然に過ぎない。なぜそんなに全てを深刻にとらえるのか?


 ―――エミール・シオラン




 みんなが単縦陣を取ってそれぞれの仕事をしたり、いろんなことを考えている間、僕は自分のことを考えていた。

 トッドと呼ばれる〈連邦〉所属の駆逐艦〈マラシュティ〉の艦長が、二七世紀の僕の姿だ。海軍士官の制服そのままなスタイルに艦長帽、眼鏡をかけた癖のある茶髪のひょろっとした男。腰にはアンティークなレーザーピストルをぶら下げている。本当に二七世紀の駆逐艦艦長なのかと言われるような、クラシックなスタイル。懐古趣味もいいところだと言われそうな、そんなスタイルだ。

 それはもちろんそうだ。僕は本来なら二七世紀の人間ではないのだ。



―――僕らは、僕らこそは、野蛮人である。



 少なくともこの二七世紀においては、そうだ。僕らは野蛮な時代の野蛮な人類として、宇宙戦争をするためにここに呼び出された。

 まさかどこかのSF小説でもあるまいし、自分がのめりこんでプレイしている宇宙戦ゲームが、未来人によって作られた宇宙戦闘艦の艦長を選別するツールだったとは夢にも思わない。僕は文明人として生きてきたつもりだったけれども、遥か未来の銀河人にとって、太陽系第三惑星にへばり付いてるのは野蛮人なのだそうだ。未だに納得がいっていないが、とはいえ、こうして宇宙戦争を楽しんでいるのだから、もしかしたら僕と言うのは本当に野蛮人なのかもしれないが。



「こんなのおかしいですよ!」



 ぷくっと頬を膨らませて唇をとんがらせ、可愛らしくもぷいぷいと怒っているルクサンドラを見ながら、僕は頬を緩める。

 PAI―――曰く、個人用抗加齢遺伝子処理済アンドロイド。彼女もまたそのPAIだ。可愛らしく綺麗な外見は、僕の好みを反映したもので、ルクサンドラはそういうふうに作られている。主人マスターに尽くし、主人マスターを愛し、そして時に主人マスターに怒ったりなんだりする最愛の相棒。どの船にもPAIがいて、さまざまな性別、外見、体系、性格をしているが、主人マスターに献身的、協力的という面では変わらない。PAIはその生命維持に主人マスターの遺伝子伝達を含むアミノ酸が必要なので、僕のように恋人としても付き合っている艦長も多い。

 まあ、そういうところなのかもしれないなと僕は艦長帽を深く被りながら溜息をつく。文化人と言っても、目の前に好物を特盛で出されたら欲求が湧く。文化と欲求は背中合わせだとは思うが、それはもしかすると二一世紀の考えでそれそのものが野蛮な考えなのかもしれない。



「ルクサンドラ、そう怒るなよ。ヘルヴォルも言ってただろ、楽しめってさ」


「好きでもない相手に持ち掛けられた縛りプレイを楽しめるほど私はマゾじゃありません!」


「でもまあ、俺が乗り気だったら話は別だろ?」


「……―――? …………ッ!? 変なこと言わないでください!!」



 がっくん、と駆逐艦〈マラシュティ〉が揺れる。PAIの情報処理能力は凄まじく高いのだが、ルクサンドラはこういうところがあるのでとてもかわいい。

 そうこうしているうちに、艦隊は単縦陣を取りつつある。先頭艦は重巡洋艦〈トーデン・スキョル〉、駆逐艦の先頭は〈オーバーストランダー〉、その次に我が〈マラシュティ〉とテディの〈ロック・ハンプトン〉、最後尾に〈サーレマー〉が続く。艦種はバラバラで武装もバラバラ、艦の性格もバラバラときたものだ。というか、僕とトッド以外はどいつもこいつも一癖も二癖もあるカスタムをしている。

 重巡洋艦〈トーデン・スキョル〉は速力が巡洋艦としては控えめで装甲はそれなりだが、荷電粒子砲に合わせて150ミリ単装レールガンをこれでもかと積みこんでいる。一方で光子魚雷発射管は4門と控えめで、CIWSも大味と評判の57㎜重近接防禦システムを愛用している。大量の150ミリレールガンと57ミリ重近接防禦システムは弾幕を形成し、ファイアレートを無視した一撃必殺タイプの荷電粒子砲は脳筋カスタムからは信じられないほど的確なタイミングで飛んでくると言われている。罵詈雑言付でそう書かれていたのだから本当なんだろう。艦長のエーリクはヴァイキングというか、古き良きデーン人そのままな見た目のインテリなデンマーク人らしいし。

 


『通信は繋いでおくぜ、エーリク。他の奴らもそうしろよ、楽しむなら皆で楽しもう』



 通信で出てきたのは青色オールバックにレイバンのサングラスをかけたパンクな若い女性だ。駆逐艦〈オーバーストランダー〉の艦長、クリスタル。

 レザーブーツにレザージャケットにレザーグローブとレザーのオンパレードな彼女が乗り込む〈オーバーストランダー〉は、駆逐艦乗りの中では、特に戦闘好きな駆逐艦乗りには人気な重武装スタイルだ。

 通常なら120ミリクラスがいいところの駆逐艦の主砲に150ミリの連装砲を採用し、魚雷発射管と近接防禦システムを詰め込んだゴテ盛り仕様。射撃用センサーも巡洋艦クラスの物を積んでいて、それを小型高出力機関で無理くり振り回しているというヤツだ。カタログスペックでは強いのだが、この手のカスタムはランニングコストがかかる上に損失時の心の痛みがすごい。普段使いには向いていないのだが、このクリスタルは普段からこの〈オーバーストランダー〉を乗り回しているらしい。彼女の性格はその〈オーバーストランダー〉を見れば分かる。グレイの低視認色彩の船体に白文字で〈重武装ヘヴィウェポン犬小屋号・ドッグハウス〉と書きなぐってある。実にロックでパンクだ。

 


『こちら〈サーレマー〉。TURMSがないならその手しかあるまいよ。御決まり(セオリー)通りにいこう。何かあればまあ、なんとかするさね』


『〈ティルピッツ・ツヴォー〉のゴットハルトだ。艦隊各位に我が艦のゲイラヴォルから偵察情報を送る。我が艦は泊地より貴艦らを援護する』

 


 最後に顔出ししたのは駆逐艦〈サーレマー〉の艦長のレジーナ、そして泊地でにっちもさっちもいかない状態にある戦艦〈ティルピッツ・ツヴォー〉のゴットハルト。

 レジーナは黒髪碧眼の古風な言葉遣いをする妙齢の女性で、シックな黒いドレス姿だ。その隣には屈強な男性型のPAIが控えており、さながら女王と騎士と言った感じである。戦艦の〈ティルピッツ・ツヴォー〉は正反対で、クルーカットの茶髪にブラウンの瞳のガチガチドイツ人という見た目のゴットハルト艦長に、小雪のような白髪を腰まで滑らせる碧眼の女性型PAIのゲイラヴォルが控えている。二人して軍服っぽい服装をしているあたり、僕が抱いているドイツ人そのままという感じで正直嬉しかった。



「こちらは駆逐艦〈マラシュティ〉のトッドだ。〈ティルピッツ・ツヴォー〉に感謝する。―――さて、御決まり(セオリー)通りに暴れて楽しもう。我らが司令官チーフがそう望んでいる」



 了解、と各艦からの返答があったとほぼ同時に、重巡洋艦〈トーデン・スキョル〉のエイリークも現れた。

 髭面ビール腹に日焼けた肌ともじゃもじゃ茶髪のおっさんである。そのまんまだ。その特徴を備え持ったデンマーク人だ。いや、デーン人かな。

 彼はその見た目通りのダミ声で僕らに行った。



『さあ帆を上げろ!! イングランドを攻め落とす勢いで征くぞ!!』



 ―――ここにはいないイングランド人に配慮して僕は応答を差し控えた。

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