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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第9話 異端認定

 そこに、王侯貴族に対する敬意は含まれていない。

 空気が一瞬で変わった。

 一人道化と化していたラムダにならうよう、皆が兵士や騎士を求め出したのだ。しかし願いは届かない。兵士が出入口を固め、動こうとしない。


 ーーそう、兵士は既に入れ替わっている。

 さながら阿鼻叫喚。

 誰も来ない地獄絵図。


「そこな小娘。役立たずとは誰のことか」


 ハラルド・ライン・ウォーシュタイン。陛下の表情は優れない。汗をかいているな。冷たい汗は、どんな味だ。


「ここにいる全員だ」


 告げると同時、ミーシャとアリスが玉座周辺からこちらに降りてきた。

 素早く私の隣へと並び、奴らと向かい合う。


「もういい。茶番は終わりだ。エルカといったな、話がある。奥へ来い」


 立ち上がろうとしたハラルド王は、しかし立ち上がれなかった。出入口の封鎖が解かれない。

 確認したゲッツア殿下が、こちらに降りてきた。

 我々の後ろに立つ姿は、まさしく後見人といった光景だろう。

 旗色を翻し、並び立つミーシャが口を尖らせる。


「エルカ先輩、ひやひやさせないで下さい」

「あらミーシャ、堂に入っていたわ。あなた女優向きよ」

「好きでやったわけじゃありません。二度とやんないです」


 ナチュラルメイクが良く似合う、私の可愛い後輩。胸を押さえる辺り、本当に緊張していたのだろう。

 アリスは純真さを瞳に携え、私を見つめる。


「エルカ様、私頑張りました」

「そうね。あなたには荷が重いと考えていたけれど、成長したわね」

「ありがとうございます!」


 小さな少女は頬を紅潮させ嬉しそうだ。

 だが、言わなくてはならないことがある。


「ところで……二人共話盛ったな?」


 両脇を交互に睨みつける。


「話盛ったよな? なあ話盛ったよな? お前ら完全に盛ったよなあ? 誰があそこまでやれっつった?」

「……ミーシャさんがやれと言いました」

「ちょっとアリス! 違います先輩、私達にはいつもああ見えて……違う誇張、そう必要な演出! テンプレに乗れって、先輩が言ったんじゃないですか!」


 アリスは身内を売るのが早過ぎる。そしてミーシャは先輩への敬意がなってない。二人共教育が必要だ。

 必要以上に話を盛るな……誰のことか分からなくて困惑する!


「ふむ、こういうからくりか」

「いえ、仕上げが残っています」


 殿下の呟きに、音速には劣るが反応する。


「一体どういうことか……騎士団はどうした!」


 ついに獲物が狼狽え始めた。


「それはどちらの騎士団ですか、司祭」


 ルドルフ教会司祭。我が国を始め、周辺一帯に浸透した信仰の代弁者。


「ふざけるな異端者! この悪魔め!」

「黙れ性犯罪者」

「だ、誰がっ……!」

「いい年こいてみっともない」


 少年少女に対する暴行の常習犯。信仰を隠れみのにした行いは、さながら悪魔の所業。


「騎士団? 教会騎士団、それとも神殿騎士団でしょうか。或いは王国騎士団」

「病院騎士団に我がライン騎士団とてある!」

「ライン騎士団はお前の幕下ではない。増長ここに極まれり」

「なっ……!」


 じじいが、あたふたしやがって。

 おとなしく聖典でも読み耽っていれば、縛につく程度ですんだろうに。だがお前はここに来た……!


「この集まりは継承問題を議論する為のもの。なぜ教会の司祭如きがのこのこ顔を出した」

「如きだと……この不信心者め! 教会に仇なしこの世界で生きていけると思うなよ!」


 老いた司祭が世界を語る。

 これほど滑稽な様はあるだろうか。


「お前の言う世界とはなんだ」

「知れたこと! 神が創りたもうたこの世界! 貴様信仰を、神の教えを否定するか!」

「よく知らないからどうでもいい」


 聴衆と化していた者達が、怒りの視線を向けてくる。なるほど、これは付け入る隙が少なそうだ。この手の社会で、意味不明な壺を売るのは難しかろう。既に分厚い勢力で固まっている。

 救済のお題目を掲げながら、内情は真逆。看板に偽りを記すのは、古代からの常道と言える。背後関係に気を配らねば、何者かの操り人形と化す。

 関わらぬが第一、取り締まるが第二。第三の選択は……。


「しかし一つ言えることはある」

「これ以上我が信仰を冒涜すれば……」

「すればなんです。贖宥状を乱発するぞ、ですか」

「免罪符の何がいかん! 人心を救う為、教会の行いに異義を唱えたな! 貴様は異端者だ! 司祭権限による決定だ!」


 ルドルフにより正式に認定された。ありがとう司祭。

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