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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第7話 追放とミステリー

 皆が正気に戻ったよう、陛下の顔色を窺っている。


「では陛下。教会は後程ということですので、ご裁断を」


 ゲッツア殿下が仰々しく礼を執る。


「追放。後、拘束。教会は独自に判断されよ。身柄は渡さん」


 国王陛下が重々しく言い放つと、ラムダは快哉を叫ぶが如く腕を振り上げた。


 そうなの、そんなに嬉しいの。

 皆も当然と言った顔だ。

 では、こちらも遠慮はしない。

 改めて、


「皆様ご静粛に。慰謝料を請求します」


 私の要求を言葉とする。


「今更何を。君は全て失う! 短い命だったな!」


 ラムダは勝者の顔をしているが、私の戦いはこれからだ。


「さっきから何をしているんです? 私は私で用があってここに来ました」

「どういうことか」


 殿下が応じ、ラムダは冷笑を浮かべていた。陛下は憮然としている。それはそうだろう、ハラルド陛下に物言える者はごく限られている。


「皆様に対し、慰謝料を請求します」

「何を言っている」

「この間、天下国家の為に働いて来ました。地域の安定、外交ルートの開拓。わけの分からない異世界転生者。それを召喚する女神、は私は何もしていませんが。とにかく働きづめでしたわ」


 ネイルをする暇もなかった。髪の手入れもままならない。皆が遊んでいる間も、私は働きづめだった。


「誰の命令、誰の指示か」


 殿下の無駄のない問いかけに、短く応ずる。


「私です」

「君は何を言ってるんだ?」


 ラムダが水を差す。殿下と話しているのに。何度めか、ラムダにこうして呆れられるのは。皆も同様のようだけど、呆れているのはこちらも変わらない。

 仕方なく首をラムダに向ける。


「いずれ来る魔族、魔王との戦い。地域紛争、或いは大戦に備え駆けずり回っていました」

「わけの分からんことを! 気でも狂ったか!」

「わけは分かるでしょう。ラムダ、あなたが証明してくれたわ」

「……どういう意味だ」


 言葉とは裏腹に、ラムダの表情から血の気が引いていく。自覚はあるようだ。


「無断外泊、国外で。見ていたのでしょう?」

「僕が見たのは隣国だ」

「ルナリアの最南端、確かに行きました」

「証拠は!」

「いや、あなた出しちゃってるじゃない」


 ラムダが言葉に詰まった。やはり、悪魔崇拝の件だけでなく証拠資料を提出したな。なるほど、だからゲッツア殿下はついでなのか。


「追放と言ってるだろう……!」

「結構。そちらがそうなら、こちらも同等」

「全く別次元! 国家の決定に逆らうか! この反逆者め!」

「裏切ったのはあなたよ、ラムダ……」


 私の婚約者。幼い頃から結婚を約束された、思い出の人。あなたとこうして本音で話すのは、今日が初めてかもしれない。そして最後。


「言い分がある、ということか」


 ゲッツア殿下は些か戸惑いながら、正確に受け止めてくれた。


「もちろん、慰謝料いただきます」

「それだけではないな。悪魔崇拝など、何やら関わっているとみた」

「黙れっ!」


 突然ラムダが大声で叫んだ。とても正気とは思えない。悲壮感を漂わせ、私を憎々しげに睨みつけている。さながら狂気の塊だ。

 奥底に何かを孕ませ、彼は口を開いた。


「悪魔崇拝してただろう……」

「さあ」

「悪役令嬢はざまあされる運命……」

「そう」

「追放されるのがテンプレ展開……」

「へえ」

「テンプレは正義……」

「ほう」

「テンプレからは誰も逃れられない……」

「そうかしら」

「悪役令嬢が追放されることこそテンプレ!」

「ふーん」

「テンプレ否定は絶対に許されない!」

「なんで?」

「テンプレ展開こそが嗜好であり至高だからだ!」

「言質取れた。ありがとうラムダ」


 ラムダを含め皆様頭の上に疑問符が浮かんでいる。

 それはそうだろう。

 なら、私が解決するしかない。

 ミステリよろしく、情報は全て開示されている。


「ラムダ、あなた異世界転生者と繋がりがあるわね」

「何を……そんなものはない……」


 弱々しいな。見ていられない。


「テンプレート、これを略してテンプレという。定型を意味します」

「そんなことは知っている」

「なんで知ってる」


 返事がない。ラムダに戸惑いが見られる。


「テンプレ展開とは、決まった物語の展開という意味ですね。今回は私が追放されてざまあ、ということにしたかった」


 弱り戸惑うラムダに代わり、殿下が対応する。


「誰がだ。ラムダ君か?」

「……裏切り者がここにいる」


 静かに告げると、皆はともかく殿下と陛下は理解したらしい。

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