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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第5話 追放の始まり

 誰かが「追放に決まっている」と呟くと、濁流のよう「追放だ!」という声がとどろき始めた。


 ああ、私もあっちで無責任な追放コールに参加したかった。楽しそう。


 イエー、悪役令嬢追放追放。お前の人生これでおわーり。地獄で後悔してもおそーい。悪役令嬢ざまあにてんせーい。ノックアウトは異端者に。

 ライムを刻むぜ柑橘系。

 追放案件よーよーyo。チェケラ。


 ヒップホップに私も煽り倒したかった。良く知らないけど、この騒ぎなら演歌歌ってもバレないだろう。

 にほんーかいぃーってぇーどこにぃーあるのぉー。

 こぶしを利かせたい。


「皆さん静粛に!」


 ラムダが一喝したのは騒ぎを静める為だけではなかった。左手にある扉が開き、実に豪奢な身なりをした人物が威風堂々玉座の間に入って来たのだ。

 誰かが思わず「陛下!」と声を上げ、皆が礼を尽くしている。私もそれにならう。

 しかしなんと、これでは陛下の裁断一つということになる。参ったな。


 ハラルド・ライン・ウォーシュタイン陛下。

 ライン王国の現国王はまだ四十代半ば。子宝に恵まれたこのお方の跡目を決める、今日はその会議が行われる予定なのだ。

 ちなみにミドルネームは同じラインだが、あちらは上のライン。私達は下のラインと呼ばれている。見て、これが格差社会よ。


「何を騒いでおる」


 陛下の言葉が重々しく響く。皆が恐縮する中、先んじたのはゲッツア殿下である。


「恥ずかしながらこの者を追放とするか否かで、揉めておりました」

「揉めてなどいません」


 ラムダは何を思ったのか、殿下の言葉を真っ向から否定した。


「何を言う。どういうつもりか貴公は」

「恐れながら陛下には先刻、証拠資料をお渡ししています。証人も同様」

「なんと……」


 ゲッツア殿下の顔に苦渋が浮かぶ。小僧にしてやられた。全てラムダのシナリオ通りなのだ。

 悪魔崇拝者の集会は殿下のお膝元。責めは避けられない。なんという根回しっぷり。私の婚約者がこんなにしたたかだったなんて。


 再び陛下が口を開いた。さながら生と死を司る神の如く。


「で、そこな娘。貴様の言い分は」

「はい、婚約破棄だそうです」

「ふん。それで、言い分は」

「慰謝料を請求します」


 この一言をきっかけに、場に微妙な空気が流れ始めた。どうして?


「ごほん。そうではなく、悪魔崇拝や召喚、或いは他国への出入りについて。それからギルド関係、賞金首についての言い分は」


 多いな、とゲッツア殿下は呟くよう付け足した。

 気の毒な役回り。素直に応じる。


「はあ、特には何も」

「正気か」

「ええ。慰謝料さえ貰えるなら」

「ちょっと待っていただけますか」


 私と殿下の間にラムダが割って入った。


「君は何を言ってるんだ」

「慰謝料を決めないといけませんわ」

「追放だ」

「そうですか。では慰謝料を」

「いや追放だっつってんだろ!」


 青筋を立てラムダは声を荒げた。およそ王侯貴族を前にした振る舞いとは思えない。どうしてそんなに怒るのだろう。怒るのはむしろこちらでは?

 そんな私に、


「追放される者に慰謝料などあるわけないだろう」


 ラムダは嘲りを込め言い切った。

 うん? どういうこと?


「あの、なぜでしょうか」

「悪魔崇拝に日頃の行い。追放される君に渡すものなどない!」

「追放はともかく、婚約破棄の慰謝料をあなたに請求しているの」

「そんな権利存在するか!」

「するわ。だって婚約者ですもの。婚約破棄なら被害を慰謝料とするしかありません」


 皆が呆然としている。ラムダまで口をぽかんと開けている。泰然としているのは、殿下と陛下だけ。

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