第18話 真意
残されたのは我々五人。
ミーシャとアリスは居心地の悪さを感じ、落ち着きがない。何か言いたげな顔をしているが、最後まで私を見ていて欲しい。それが先輩として、あなた達に出来る最後の役割。
口火を切ったのはライン王国最強の男、ハラルド陛下だった。
「しかしこんなことになろうとは。ゲッツア、貴様謀ったな」
「なんのことですかな。私はただ、職務に忠実であらんとしただけ」
「職務、全てそれに集約されるということか」
睥睨としていた者から、今自責と後悔の念が垣間見られる。私の思いを伝えないと。
「陛下、この度の行いただただ猛省するばかり。それでも私は、全てを投げうつ覚悟で参りました」
「理解したと言った。遠慮もいらん。だが一つ、いやいくつか腑に落ちん点がある」
「なんなりと。いえなんでもどうぞ」
「うむ。エルカ、君の両親はなぜこの場にいた」
「教会、転生者の差し金。追放を確かなものとする為でしょう」
「君はそれで良かったのか」
「全く。子離れ親離れには丁度いい。と言いたいところですが、二人は格別の働きをしてくれました。アールブルト侯爵家は伊達ではありません」
これには陛下も殿下も意外と表情に出ている。
「あれが演技というのか」
「恐らく。保険をかけたとも言います。私が何者か、父や母は知っています。そもそも……」
「そもそもなんだ」
「侯爵家とはいえ実の子を、我が娘とは呼びません。およそ名前か愛称です」
「符号であったか……したたかな。生き残りの道を模索し、親子の対立も辞さぬ。大胆不敵」
「本来ここにはおらぬはずの二人。教会や転生者は策に溺れたのですな」
ゲッツア殿下は冷静に分析する。
「では二つ。この転生者の目的はなんだ」
陛下はスズキ・マイケルを片時も離そうとしない。それだけ警戒している。前線を離れたとはいえ、自慢の魔法で仕留められなかった。
「スローなライフを謳ってはいましたが、ただただテンプレの実行あるのみ」
「こ奴が得るものはなんだ」
「更なる力。奴の転生ボーナスはテンプレ、定められた流れに沿うことで影響力を発揮する。或いは更に力を増す」
「だが失敗した。君はそれを予見していた」
陛下の発言には遊びがない。無駄を省いた実直な姿勢。だが現役を離れて久しい。
「いえ、成功しています」
「なんだと?」
ゲッツア殿下が強く反応した。
「あの転生者の力、恐らくかなり強い。人を誘導し、場合によっては支配する力すら持つでしょう。ただし、見通しが甘かった。所詮は素人。女神に与えられた能力に頼るしか能のない歪んだ異物。
加えるなら、奴はこの場に来てしまった。もしかすると、それが能力を行使する条件」
「なぜだ。教会にいたのだろう? 君のことは知っているはず」
告げた後、陛下は思い当たったらしい。
「そういうことか……」
「はい。常日頃から教会、及びギルドから私の動きはほぼ筒抜けでした。一つ、騎士団を除いて」
「偽の情報を流したな」
「仰る通り」
「逆手に取る。だから私には君の姿が見えなかったのか……」
陛下は語尾を弱らせ、物思いに耽るようだ。
情報操作の結果、私の存在は曖昧となる。結果私の人物像、及び功績実績は実に正確性を欠くものとなった。
聡い諸侯は独断で動く私を疎ましく思い、情報を隠蔽。或いは不都合な情報だけを報告し続けた。裏切り者は確実にいる。
王宮に届く頃には加工され尽くし、私の存在は、諸侯と自らにより撹乱される。陛下の耳に届く頃には、わけの分からぬものになっていただろう。
殿下ですら、私という存在が確かなものか、ギリギリまで把握していなかった。
「では、テンプレとやらが成功したとはどういうことだ」
陛下の問いに、率直に応じるのは心苦しい。それでも今更引き返せない。ラムダの言葉を借りるなら真摯ではない。
勇を奮い言葉とする。
「私はここに、追放されに来たのです」




