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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第15話 応ずる者

 スズキ・マイケルの自殺的行動を読み切れなかった。後悔は募るが、とにかく被害がなくて良かった。

 睥睨する者が立ち上がった。

 そして我々に向かい頷いて見せる。

 思わずも胸が締め付けられた。

 正しくメッセージを受け取ったゲッツア殿下が、


「者共出合え。残らず引っ立てろ。一人も逃すな!」


 重く低い声で、騎士団員らに指示を出す。

 指示を受けた騎士や兵士が玉座の間になだれ込む。

 恐怖に怯え叫ぶ者もいれば、激しく抵抗する者もいる。だが大半は、命の無事に安堵している。おとなしく縛につき、縄目の恥辱を生きた証と言わんばかりだ。惨めな様だが、同情の念はない。


 一同が去ると、玉座の間には私と殿下、ミーシャとアリス、そして陛下とラムダが残るばかりとなった。そこに騎士団員二人が戻って来た。先ほど怒りの罪状を並べた、ライン騎士団と神殿騎士団の者だ。陛下の背後に並び立つ。

 ハラルド陛下はそれを見届け、玉座から降りた。

 歩きながら、陛下は口を開く。


「そこな娘、エルカといったな」

「左様でございます。エルカ・ライン・アールブルト。どうか無礼をお許し下さい」


 ハラルド陛下は私の前に立ち、文字通り私を見下ろした。

 すぐ様ゲッツア殿下が陛下と私を仲裁する位置につく。


「貴殿の言い分よくよく伝わった」

「畏れ多くも寛大なお言葉、痛み入ります」


 視線を外し、カーテシーではなく腰から頭を下げる。


「礼など無用。礼儀も跪礼も遠慮も無用。ここまでの行いに相応しからぬ」

「確かに。ではお言葉に甘えさせていただきます」


 ゲッツア殿下がハラルド陛下、私と交互に表情を観察している。常識的には非礼でも、互いに問題ないと今確認がすんだ。問題なしと判断、ゲッツア殿下は徐に頷いた。


「エルカ、お前はずっと私を責めていたのだな」


 陛下のそれは、優しく穏やかな口振りだった。


「はい」

「気づいていたが、意図を察するに時間を要した。老いたな、私も」

「とんでもありません。まさか爆殺するとは」

「これは死んでおらん」


 スズキ・マイケルをぶら提げるよう持ち上げ、じろりと見やった後、興味なさげに腕を下ろす。スズキ・マイケルはボロ布のようだが、それでもごつりと音を立てた。ハラルド陛下は見下しているが、思うところはあったらしい。


「ファッションデザイン学科げに恐ろしき」

「それは関係ないと思います」

「だが私の爆破に耐えた。範囲を限定したといえ、専門的な訓練で人はここまで鍛え上げられるものか」

「専門学校も関係ないと思います」

「そうか。転生者だったな」


 頷き「よくご存じかと」と、付け加える。

 ひと時の静寂が訪れ、しかしそれを砕いたのはラムダだった。膝をつき俯きながらも、言葉を紡ぐ。


「マイケルは愚か者だ。陛下を人質に取ろうなど、神にでもなったつもりか。程度が知れる」


 グロッキーになり、茫然自失となり、半狂乱となりそれでも立ち直った彼は今、何かが枯れ果てている。それが命の灯火でないことを、今は祈るしかない。


「ラムダ君、貴公を誑かしたのはマイケル、スズキ・マイケルだな」

「そうかもしれません」


 ゲッツア殿下の問いに、ラムダは曖昧な返答を寄越した。枯れ果てる何かを振り払うよう彼は立ち上がった。


「およそ国家の命運を話す場に、僕のような愚か者は相応しくありません。なぜ退場させないのです」


 ラムダの素朴な問いに、ラインの騎士が応じた。


「リストにない」

「殿下は一人残らずと仰った」

「リストにあった」

「どっちです?」


 これに神殿騎士が応じた。


「リストはともかく、貴公は無関係とあらかじめ言い渡されていた。言いたいこともあるだろう。そもそも君は……」

「誑かされていた」

「そうだ」

「利用したとも取れます」

「そうだな。白状しろ」

「分かりました」


 ラムダはこちらに身体を向ける。陛下への礼儀も忘れ、私だけを見つめていた。

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