第14話 ファッションデザイン学科
だが、それだけが目的のはずもなし。
「裏切りは許されない。王国騎士よ、前に」
「はっ! これは気合いです!」
「そうか。王家直属のあなたにお訊きしたい。あの中央で睥睨している男をどう思う」
「……恐れながら陛下です」
「そうだな。で、どう思う――」
突如、高笑いが王家の間に広がった。
「なんてことだ! 結局ざまあしたかっただけじゃないか! これが笑わずにいられようか!」
転生者、自称マイケルが高らかに笑っている。恍惚としたその表情は実に俗人。あれが日本人という民族か。
「お前さあ、結局テンプレしたいだけじゃないか」
「気づいていなかったのか。私はそれに驚く」
「テンプレ返し! 十倍にして返してやるとそういうことか!」
何が可笑しいのか、自称マイケルはひたすらに笑い転げている。
自分の運命を悟り狂気を宿したか。
「これで僕を殺せば一件落着。転生者を殺すテンプレを知ってるか?」
「さあ。流行れば逆もまたしかり。王道と邪道は並走するものだ。覚えておけ」
「ふざけるなぁああああ!」
何を思ったか自称マイケルは玉座に飛びかかった。陛下の喉元に刃物を押し付け、首に腕を絡めて拘束しようとしている。まさか、人質にするつもりか!? 慌てたのは私だけではないが、これは計算外だ。
「おい待てマイケル。お前はマイケルだ」
「僕はスズキだ!」
「そうだスズキだ。待てやめろ、話せば分かる」
「ようやくお前の冷や汗を見られた……。最初からこうすれば良かったんだ。くそっ、ミステリの振りしやがって! 謎解きは秒でやれ! 異世界ミステリーなんて誰も読まねーよ、バーカっ!」
なんてこと、日本では異世界ミステリは読まれないの。それは知らなかったがどうでもいい。今はそれどころではない!
「ミステリの流行り廃りはともかくお前、そのテンプレ行動なキャラがどんな運命を迎えるか、さすがに分かるでしょう?」
「飛行機を用意しろ! 我々は来週がジョーだ!」
「すまない、意味が分からない」
「出来ないよなあ。未開拓未開拓! テンプレ? 何それ美味しいの?」
ダメだ、マイケル改めスズキ・マイケルは最高なハイになって自制が利いていない。
「まさか異世界で昭和をやるとは思いもしなかった。これじゃ過激派と変わらない! さあ、世界同時革命の時間だ! インターナショナルを歌え! 道を空けろ! 今は令和だ馬鹿野郎!」
違うぞスズキ・マイケル……お前は間違えた!
身内のゲッツア殿下だけじゃない、みんな気づいてる!
「僕はスローライフを送りたかった……」
「まだ間に合う!」
「もう遅い! お前皆殺しにするつもりだろうが! 同じことを何度も何度も、天丼を繰り返すな!」
「天丼には繰り返す、という意味が含まれている。それでは繰り返しを繰り返すなということになるが、その解釈でいいだろうか?」
「大体合ってるけど良くないわボケっ!」
どっちなんだ。彼は正気を失いかけている。スズキ・マイケルよ、お前本当にそれでいいのか。本当にそれで……。
「さっさと道を空けろ! ファッションデザイン学科がお通りだ! 専門学校生を舐めるな未開人類が!」
日本人はあんな服飾を学ぶ為、学費を払って学校に通うというの? ほぼ拷問じゃない。一体何がしたいの。とにかく今は――しかし、スズキ・マイケルの叫びは止まらない。
「なんで誰も動かない! 異世界転生は正義! 転生ボーナスの力見せて――」
「うるさい」
――その瞬間、玉座が爆裂した。
凄まじい轟音、激しい光で正確には見て取れなかったが、確かに爆発した。
くそっ、目がまともに開けられない!
早く被害状況を確認しないと――
音が鳴りやみ、恐る恐る目を空けると、玉座は傷一つ付いていなかった。
睥睨する者は無傷で、光の残滓が散らばっていく。
スズキ・マイケルは跡形だけ残し、ボロ布のようになっていた。思わず、
「死んだのですか……」
「知らん。生きてるかもしれん、丈夫だな。これがファッションデザイン学科の力か。侮れん」
ハラルド陛下は、つまらなさそうにそれを見ていた。