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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第12話 女神とスローライフ

 さて、全て回収するとしよう。

 空気を一変させる為、私は気迫をそっと仕舞う。


「では皆さん、慰謝料の時間です。お支払いは滞りなく、よろしくお願いしますわ」


 幾人かが広間を無理やり出ようとしている。これまでもいたが無駄。全て押し返され完全に封鎖されている。


「何を、何を求めるというのだ」


 思いもしないところから声が飛んできた。

 すっかり燃え尽きたと思っていた、ラムダその人だ。げっそりと痩せこけ、見るに堪えない。膝をつきながら、それでも私と向かい合う。


「えっと、あなたからは婚約破棄の慰謝料」

「他は」

「役に立たないクズを処理する諸費用」

「雑多過ぎる。君の両親もいるのだぞ」

「そうね。心苦しいけれど、全て支払っていただきます」

「王族は」

「配慮などはありません。特別扱いは禁止です」

「陛下は」

「同様」

「教会はどうする」

「教会改革は焦眉の急」

「信徒共が黙っていないぞ」

「黙らせるわ」

「どうやって。改宗でもさせるか」

「ただただ、殺戮の限り」

「正気か」

「邪魔さえしなければ、何もしません」


 立ち上がったラムダは、声を張り上げた。


「無実の者を戮殺しようというのか!」

「罪のない者などいない」

「陛下! あなたも何か言って下さい!」


 あなた呼ばわり。まあ、私が注意することでもない。その陛下は、


「ちと黙れ」


 ただ一言だけだった。


「黙らない! こんな勝手な話あるか!」

「いえ、もう遅い」

「何がだ!」

「あなた、方々を見て何か気づかないの?」


 私の言い分に、ラムダは周囲を見回したが口を閉ざした。

 分からないと顔に書いてある。まともな状態なら気づくだろうに。

 一方、如才なく気づいたのは転生者マイケルだった。


「そうか、有力者が足りない……」

「よろしい。妥当としましょう」

「でもおかしい。仲間に引き込んだなんて聞いてない」

「有力諸侯の半数はこちらについた。教会の情報網を信じ過ぎたわね」

「僕はスローライフを送りたいだけです」

「女神を」

「分かりました売ります」


 転生者自称マイケルはカラッと言い切った。

 ミーシャもアリスも、ゲッツア殿下も目を丸くしている。


「売るの? どこにいるのかしら?」

「案内しますよ」

「今、嘘をついたわね」

「え、いや?」


 如才ない奴だが、我々を甘く見すぎだ。そんな簡単にいくならこれほど大事にはしていない。


「女神はバコバコと転生者をこの世界に送り込んでくる。まるでカエルや鮭の産卵のように」

「一緒に止めましょう。それが理由で僕まで疑われては敵いません」


 話にならない。こいつは自分の立場を理解していない。もはや話す理由も乏しいが、それでも言って聞かせる。


「何かしら理由はある。が、捕らえたのはたった一人の女神。しかもルナリア最強の男、勇者が執念と偶然を以て成した」

「凄いなあ、僕なら秒で売ります」

「なぜそちら側にいる」

「お仕事でそれこそ偶然ですね」

「継承問題を話し合う場は、スローなライフなの」

「僕は見ているだけですよ。スローライフは譲れない! あなたも一緒にスローライフ! どうですか?」

「たわけうつけまぬけ」


 罵りを受け、それでも転生者は顔しかめるだけ。

 どうでもいい。情報は全て公開されている。


「性犯罪者の傍はさぞ心地良いだろう」

「まさかそんな人だなんて」

「内部告発を握り潰したな」

「僕じゃない!」

「言質取ったわ」


 自称マイケルの表情が明らかに変わった。


「知らないのになぜ否定するの」

「誘導尋問だ。どちらも知らないって意味なのに、だから中世な世界は嫌いなんだ」


 愚痴るよう言うが、転生者の価値観など私の知ったことではない。何より、お前は知っていたはずだ。確信を胸に、マイケルと対する。


「ちなみにだが、教会上層部において司祭共の悪行を知らぬ者はいない。無論側近もだ」

「知らないものは知らない」

「女神の居場所も知らない」

「知ってます」

「ならお前が女神だ」

「……男ですけど? tsじゃないですよ?」

「女神は居場所を絶対に知らせない」

「偶然知ってるんです。まぬけな女神だったから」

「もしそうならいつでも捕らえられるので無用」


 頑とした拒絶だったが、自称マイケルは諦めが悪かった。


「こんな機会滅多にないのに。後悔しますよ?」

「お前を信じる馬鹿はこちらにいない」

「なんでそんなに転生者を憎むんです?」

「憎しみなどない。既に殺戮の限りを尽くしている者達に、遠慮は無用」

「暴論だ」


 マイケルは嫌悪を投げつけてくるが、いつまでもこいつと問答するつもりはない。だから、私は最後のカードを切る。


「お前の相手ばかりしてはいられない。一つだけ黄泉への手向けをくれてやる」

「なんだよ、いらないよ」


 子供染みた振る舞い。ふてくされるマイケルに対し、端的に告げる。


「転生しろ」

「……は?」

「さっさと転生しろ」

「何を言って……」


 それは冷たく、なんの色も感じさせない。

 マイケルの表情から少しずつ血色が失せていく。


「転生すればいい。死に戻りでもいいぞ。何度でもやり直せ。都度殺してやる。まあ私でなく殺戮の方の勇者かもしれんが」

「そんな都合よく転生出来たらみんな必死に生きませんよ。親ガチャって言葉知りません?」


 初耳だ。が、どうでもいい。

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