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侯爵令嬢の華麗なる追放劇  作者: 文字塚
第1章 侯爵令嬢の華麗なる追放劇
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第10話 役不足

 感謝ついでに、教会には以前から言いたいことがあった。だからあえて問いかける。


「ところで、免罪符を購入したらなんか購入者特典とかあるんですか?」

「……何を言っている」


 司祭がラムダ化してしまった。


「だから、素敵な役者や華麗な踊り子、或いは歌い手との握手券とか付いて来るんですか?」

「あるかそんなもん!」

「だったらいらんわ! せめて豪華付録ぐらい付けろ! 創刊号を舐めるなよ! ビジネスは真摯に行え! このくそ信仰屋が! サービス業の風上にも置けん!」


 威圧的文言に、敵意を向けていた奴らが色めき立つかと思っていた。だが違った。当然だ、伝わっていない。理解出来ない話だった。


「あの、司祭様は神の名の下、ラインにご加護あらんと招きに応じただけ。どうか、司祭様を責めないでいただけますか?」


 それは唐突に訪れた。司祭のお付きが、たどたどしくも意見してきたのだ。若い男性。変わった衣装を身にまとい、今まで口出しして来なかった。これは強く拒絶する。


「黙れ。役に足らん。若造は引っ込んでろ」

「いえ、このままだと慰謝料請求が教会にまで及びかねない。それは、とても困ります」

「役に足らん。なんだそのふざけた衣装は。喧嘩売ってんのか?」


 スカートのようだがファッション性の高いそれ。スリットというでもなく、裂け目があるから覆ってはいない。頭髪は半分が刈り上げられ、左右非対称。教会関係者のくせになんだこのふざけた装いは。


「聖職者なら聖職者らしい格好をしろ。何事も形からだ」

「私は聖職者ではありません」

「見れば分かる。役に足らん、すっ込んでろ」

「役不足かもしれませんが、私は皆様が心配で。話し合う余地はありませんか?」


 ()()()だと……そうか、お前がそうなのか。ずっと探していた、お前がそれなのか。ゲッツア殿下に目配せをして、兵士を招き入れる。合図と共に騎士と兵士がなだれ込む。ただし選りすぐり。周囲を取り囲むことこそ肝要。


「役不足なのか? 名は」

「マイケルと申します」

「やあマイケル。お前がマイケルだ」


 一見遠慮がちに見えるマイケルに、私はにこやかに応じた。どう感じたかまでは読み解けないが、彼は淀みも見せず語り続ける。


「はい、マイケルです。どうかお助けを。お情けをいただけませんか? あなたが何をしたいのかは、皆様よくよく理解されたでしょう」

「いいや全く。しかし君は理解したらしいな」

「全てとは申しません。ですが慰謝料の請求は、かなり広範に及ぶでしょう。そして今、騎士団に取り囲まれている」


 正しい認識だ。

 司祭ルドルフは、困惑の色を深めに深め叫んだ。


「なぜ教会騎士団が……神殿騎士団は我が教会幕下!」

「そうね。不思議な話」

「どうなっている。お前達、なぜそちら側にいる!」


 どうやら教会、神殿騎士団の者がいるらしい。人選までは関わっていない。見れば武具甲冑が確かに不揃いだ。気の毒な老人を前に、私は首を傾ける。


「まーだ分からんのか」

「分からん……」


 素直でよろしい。ルドルフの困惑は、老いたその身では当然とも言える。だから告げる。


「以降、教会の指導権は、教会騎士団と神殿騎士団によって執り行われる」

「そんな馬鹿な話があるか! 天と地を返すなどありえん!」

「返った。誰だって仕切りたいだろう? 少なくとも性犯罪者に仕切られるままよりはマシだ」

「濡れ衣だ! ふざけるな!」


 反応が若い。老いた司祭とは思えない。無駄に元気で活きがいい。感心していると、再びマイケルが口を開いた。


「騎士団が簡単に寝返るとは思えません」

「マイケル。確かにお前はマイケルだ」

「マイケルです。一体どうやって寝返らせたんですか?」


 マイケルの口振りは現実を受け止めてのものだ。


「片方が寝返れば片方が折れる」

「いえ、政争になります」

「片方に他の騎士団と私が付いた、としたら?」

「……なるほど、そういうことですか」


 マイケルは理解したようだが、司祭ルドルフは全く違った。

 

「そんな馬鹿な話があるか! 王国騎士団やライン騎士団に、お前に付く理由はない! 病院騎士団とて事実上我らが幕下だ!」


 甘いな。人の話を聞いていないのか。やはり老いぼれ。本質を理解していない。


「騎士団はなんの為にある」

「知れたこと! 神の教えを広げ、異教の者を退け改宗を促す為! 貴様ら、この小娘に誑かされたか!」


 敵と戦う為と。大体合っていると言いたいが、仮想敵は誰だ。


「マイケル、君はどう思う」


 端的な問いかけに、マイケルは躊躇いもなく応じた。

 

「信仰を広げるのは教会の役割。戦うことが、騎士団の本質かなと」

「正解。敵だ、それが重要」

「敵とは誰ですか?」

「あらゆるものだ」


 誰が敵になるか分かったものではない。だからこそ、こうして私はここにいる。

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