ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 008
「オレが次に通る自動車に飛び込む。君は追っている自動車が走り去った方面に乗せていってもらうといい」
阿蘭の提案を莎等は理解できない様子だった。
「何を言っているの?」
莎等はあきれたように言った。
「あなたが自動車にはねられて、どうして私がその自動車に乗せてもらえるの?」
「君がはねられたオレにかけよって、はねた相手にオレを運ぶように言うんだ」
「どこに?」
「知り合いの町医者のところとでも言えばいい」
莎等は少し考えていた。
「当たりどころが悪かったら死ぬわよ、貴方」
「技能を使う。オレの技能は、たぶん自分の身体能力などを一時的に強化できるものだと思う。」
「強化できる技能だと思う根拠は?」
「自転車を漕ぐ際、足の筋力を一時的にあげることができた」
「すぐバテたのに?」
「心肺能力の方まで、能力の範囲を広げなかった」
「じゃあ、今から心肺能力にも技能を掛ければいいじゃないの?」
「ハハハハ」
阿蘭は莎等の提案を聞いて笑った。
「強化しても自転車で自動車には追いつけない」
莎等は振り返り、誰もいない稜線にむかって、「あーーーーー!」と大声で叫んだ。
「お姉さんが心配なのはわかるが落ち着け」
「違う!、あんたのせいよ!」
「ん?」
「何が『強化しても自転車で自動車には追いつけない」よ。そんなこと最初からわかってたでしょ」
「でも、君も荷台に乗った」
「策があると思ったからでしょう」
「自転車での策は尽きた。だが、次の策を打つ必要がある」
莎等はイライラしているようだった。
「オレはまず行動する。そして、動きながら考える」
「あーーーーー!」と莎等はまた大声で叫んだ。
「わかったわ。安心しなさい。遠慮なく、私が次に通る自動車にあんたをぶつけてあげる」
阿蘭はやわらかな笑顔を作って見せた。
「大丈夫。自動車にはオレのタイミングで飛び込む」
「いいえ、三文芝居なんてやったら、その自動車に逃げられるわ。私が間違いなく息の根を止めてあげるから」
「おいおい、息の根を止めちゃダメだろう」
阿蘭が笑い、莎等は大きく息を吸い込んだ。
「来るぞ」
大声を出そうとしていた莎等を阿蘭が制した。
莎等の耳にも自動車が近づいてきている音が聞こえた。
「オレは身体を張るだけだ。全ては君にかかっている」
「大丈夫よ。もともと、私一人で解決するつもりだった」
阿蘭が自身に対し、技能を発動させたのを莎等は『察知』した。
自動車のヘッドライトがすぐ側まで来たのを見計らって、側道から阿蘭は自転車とともに飛び込んだ。