気まずい
土日が過ぎて週が明ける。またいつもの月曜日から始まる一週間。
眠気の限界の四時間目を耐えれば、やっと一段落つける昼休み。指を組んで凝った体を上へ伸ばす。
「うひやぁ!」
無防備なわき腹に刺さる人差し指。
変に出た声を隠すように身を縮ませ、私のわき腹を傷物のした犯人を睨みつける。
「最高に可愛いっ。もう可愛いんだからもっと周りには気を付けなきゃ」
この高校にいる数少ない同じ中学の友達。その中でも親友と呼べる子だが、反省はしていない。というか、期待もしていない。
「澪、だからやめてって言ってるでしょ」
「だってあんなに綺麗なくびれを見ると、つい指が出ちゃうの。それに私思うの、誘惑する女の方が悪くないって?」
無邪気な笑顔で言われても何も共感できない。10:0で澪の方が悪いよ。
「誘惑してないし、変な妄想しないでその指を抑えて。ちょん切るよ?」
「あ、闇落ち葉音が出てきた~。ドォドォ」
時々、出てしまう心の底からのチクチク言葉を闇落ち葉音と呼ばれる。
高校ではまだ澪以外で見せていない。というか、見せる程仲良くできてる人がいない。
「私は動物じゃないんですけどっ」
「私のから揚げあげるからそれで許して。それに葉音はもっと肉をつけなきゃ」
澪はバレーボール部でボーイッシュさ溢れる、ショートカット。性格は陽キャラでポジティブ、元気っ子。
きっと澪がいなかったら、ぼっち高校生だった。その点では感謝している。
「葉音~、ほら隣」
イスを軽く叩く澪。そこには四つの固められた机。
昼食はいつも四人。
私と澪、澪がバレー部繋がりで仲良くなった人とその人の友達の四人だ。
「ねぇ、四時間目のコミュ英のプリント後で見せてくれる人いない?また呪文にやられた」
バレー部でポニーテールのプリントを頼んでる子が、古都さん。いつもどこかしらの授業で寝落ちしてる。
眼鏡を掛けている艶のある長髪の人が澄壬さん。物静かでクール。笑う時は口に手を当てる温厚で優しい人。
この二人は塾が一緒で顔見知りだったらしい。それで高校で仲が深まったらしい。
「分かる~。高校の英文長すぎ!音声流されたら眠くなっちゃうよね」
「手でもつねってみたらどうですか?時間稼ぎぐらいにはなりますよ」
「ええ~だったら寝る」
「私も~」
きっと私たちは友達なんだと思うけど。
うまく会話に交ぜれてる自信もない。古都さんや澄壬さんとは友達の友達という感覚が拭えない。どこか気まずくて、疎外感がある。
みんなどう思ってるか気になってしまう。まだ信用できてる気がしない。
みじん切りされたキャベツのサラダを食べながら、軽い自己嫌悪。
・・・図書室で猫又くんと話してる方が楽だった。
箸が止まる。
うわー、何それ。猫又くんと話したいってこと?ないない。あんなひねくれ者だよ。
時間が経てば、古都さんとも澄壬さんとも仲良くなれる。ちょっと気が合って、タイミングが良かっただけ。たまたま仲良くなっただけ。教室でもほとんど喋らないし、二人とも仲良くなった方がいい。
「葉音、どした~?もしかして、私のから揚げ食べたかったの?」
「ごめん、もうちょっとで読み終わる本があるから、図書室行ってきていい?ごめん」
ご飯も食べ終わらず、私はお弁当を片付けて教室を出る。
「え~いいの?このから揚げ」
教室にはから揚げを持ち上げたまま、固まる澪がいた。きっと不純な気持ちであ~んをしようとしてたからだろう。
「猫又くん、じゃんけん、ポイ!」
猫:パー
葉:チョキ Witer!!
「はい、やっぱり運しか勝たん!これでじゃんけんは運だね」
「心理戦なのに考える時間がないから無効です。あと、他に人がいます」
「・・・ごめん」
図書室の入り口から結構な声量でじゃんけんをしてしまった。恥ずかしい。
「じゃあ、今日もぼっち同士一緒にお話ししますかっ、猫又くん」