楽!
今日は金曜日。夏が近づいてるのが分かる、サンサンな太陽がちょっと傾きながら浮かんでいる。
一週間の図書当番も今日が最後。図書委員が一人、一週間で回っているいるから二度目はもう夏休み明け。
ご飯を食べ終え、ちょっと遅れつつ図書室に向かう。私は昨日の答え合わせにワクワクしながら。
「・・・はっけ~んっ、フフ」
一人ぼっちでソファに座る男の子。サンサン太陽の光を一身に受けている。
声をかけてあげれば、すぐこっちを向いた。私の心情はいたずらっ子みたいな感じだ。反応が見たくてたまらない。
私の姿を認識するも、ちょっと睨んでまた本に目を戻した。
昨日だったら少しイラっとくるか、悲しくなったかもしれないけど・・・ツンデレだと思えば許せますよっ。
今日も声をかけれなかったのね?恥ずかしいね?けど、教室にいるのもなんかいたたまれないもんねっ。
「今日も昼休みはボッチで本を読んでるですね、猫又く~ん」
「うるさい」
「まぁ、そうツンツンしないで。この、慈悲深い私が話し相手になってあげますから」
どうせ人なんて猫又くん以外来ないし、カウンターに座ったって意味がない。
猫又くんの斜めにある二人用のソファに座った。クッションとして置いてある、猫が魚をくわえているやつを膝に抱える。モフモフ。ボウボフ。
猫又くんは座っているのは一人用。誰も来ないから猫又専用席と化している。
「え~」
うわあぁぁーーーーーーー。何を話せばいいの?なん見切り発車したの、私のバカっ。
「あ~」
あははは、話題、話題、わっ、話題。
「あ、図書室だしなんのジャンルの本が好き?」
「ん~、ミステリーとか?」
「ミステリーと言えば小説の叙述トリックとか?」
「後はれん、あ、いとか?」
「じゃあ、高校生の甘酸っぱいやつとか?」
「そこらへんとか?」
「授業をさぼってて海にとか?」
「バカにしてんのか?」
「ご飯ボッチと陽キャ女子とか?」
「バカにしてるのか?」
「いやぁ、バカにはしてないか?」
「おうおう了解了解-バカにしてるな?」
「ごめんなさい」
おうおう、と落ち着いたと見せかけて、魚のぬいぐるみを向けてくる。魚の頭が私の前で垂れている。
ソファに囲われている机に、置いてあったお魚のぬいぐるみだ。
もう一回ぐらい行きたかった。さすがに気付かれたか。
脅しの道具として解雇になったお魚のぬいぐるみ。猫又くんは私の方に放り投える。ほら、餌が来たよ猫、食べろ。
「本は読まなそうだけど、逆になんで図書委員になったん?」
「この右手が負けまくって・・・」
「ああ、じゃんけんね。図書委員って微妙な所だから。ポスターとか図書館だよりとか書かなきゃいけないし、楽でもなくやりがいがあるわけでもない」
「悲しい。図書館だよりだってどうせ誰も読まないし」
「結論、負けたやつがバカ!」
握りこぶしまで作って、猫又くんは断言!一切の異論を認めない姿勢だ。
「バカじゃないし、運がなかっただけです」
「これが心理戦なんだな-じゃんけん、ぽい!」
猫:グー バカ、アンポンターンァ!オタンコナースァ!
葉:パー Witer!!
「あ!バカ発見しましたー。頭良さそうに本を読んでも、バカは隠しきれませんよー」
断言したまま出したグー。プルプル震え頑張りながら、しなしなに枯れていく。その手は本へ戻る。
また本に戻ろうとするんだから、都合が悪いとすぐ本読むんだから。逃げるのはよくないですよ、と。
「所詮、三分の一だから。負けの三分の一を引いちまったな」
小さく言い訳を呟く。
なんていじってやろうかそんなことを思ってると、
キーンコーンカーンコーン。
高いのどかな音が響く。私たちの雑談の終了の合図。
「当番表書いた方がいいんじゃない」
「うん、本はちゃんと元の位置に戻すんだよ」
私は手早く当番表を書き上げる。書くことなんてほとんどないし、書きさえすれば百点みたいなものだ。
図書室の出口で猫又くんと鉢合わせる。無性にこてんぱんにしてやりたくなるのは私だけなのか?
「ねぇ、知ってる?実はじゃんけんって心理戦なんだよ?-じゃんけん、ポン」
「よっしゃ!」
猫:パー Witer!!
葉:グー ポンコツ!ドアホォォ!
「まぁまぁ、猫又くんも勝ちの確率引けたね。正しい確率なんじゃない?」
「分析も数をこなさなきゃいけないからな。後半有利になるのは俺だからな」
「もう休み時間も終わっちゃうし、やめとく?」
「やめとくか。ま、最後勝ったし、絶対!俺の方が正しいけどな!!」
図書室からダッシュで教室に帰っていく猫又くん。
「勝ち逃げされた・・・ふふふ。たのしかった」
じゃんけんで楽しくなれとは。しょうもないとは思うけど、なんか猫又くんらしい。ちょっと可愛らしいくて、微笑ましい。
ちょっとだけ伸びた日光を受けて私はゆっくり教室へ向かった。