似た者同士?
「昨日すんごく恥ずかしかったんだけどっ」
「え、なんで?」
「だから!五時間目の授業に遅れたのっ。猫又くんに声をかけたせ・い・で」
「はい、すいません。本当すいません。ちょっと悪戯心が出てしまいました」
今日も図書室に訪れソファに陣取る猫又くん。日当たりのいい場所で本を広げる。
今日も今日とて図書室に人は来ない。当番の席から外れて、文句を言いに行っても気づくと人もいない。
「で、どうだった?怒られた?」
怒られたというには軽すぎたと思う。授業も挨拶を終わっただけで始まってはいなかったし。
「図書当番の仕事で遅れましたって言ったら注意で済みましたっ」
「あ、そっか」
ニコニコだった柔和な表情はスン、と猫又くんの表情が消えた。もう興味を失ったと言わんばかりに、本に目を戻した。
「人が怒られて嬉しいですか?」
「そりゃ、人の不幸は蜜の味って言うでしょ?」
また満面の笑みに戻り。口調もスキップでもしているのかと思うほどフワフワ。絶対に本心からの言葉だ。
予想はついてたど!そこは期待を裏切って欲しかった!人の不幸を喜んで。なんなら、注意されたのは猫又くんのせいだから人災だよ。
「一応、私たち話初めて二日なんだけど。もうちょっと本性隠した方がいいかもって思うな?」
さぼり魔ではあるけど、友達も多いし良い人だと思っていたのに。猫又くんの好感度の株はもう地の底。昨日の時点で暴落はしていた。
「時すでに遅しだし、猫被るのは疲れるから。それに暇人さんに使うエネルギーはないですよ」
最後にボソッと呟いた余計な一言。私は見逃さなかった。
「はぁ~?暇人はそっちでしょ!?早退してここにいたんだから!?」
「その発言はもしや、ここに本を読みにくる人間を暇人と?いや~図書委員としてその発言はいかがなものでしょうか。読書というのは知識や思想を学ぶには持ってこいであり、それだけでなくetc、etc・・・」
「うるさーいっ。揚げ足を取るなー!」
なんか詐欺師とか悪徳セールスマンとか向いてそう。急に早口になってビックリしたもん。ウィキ○ディアか台本あったでしょ、絶対。
「こっちだって、人を遅刻させたり、不幸を喜んだりするクズって女子たちに言うから。女子は悪口大好物だからあっという間に広がるよ?」
「俺ってほんっと暇人でさぁ~。いや、暇すぎて暇すぎて。はい、ごめんなさい」
「うん、そうだよね」
しきりに頭を下げながら"私は暇人です"と認め謝る。相手の機嫌を探るような目線。
そんな猫又くんを見ると、うだつのあがらない社会人が思い浮かぶ。申し訳ないことしちゃったな。
「ねぇ、いきなり話変わるんだけどさ」
ソファの前にある机に肘を置いて手を組む。ふざけた口調は一切なし。いつもの眠たそうな目がちょっとだけ広く開いてる。
「うん、何?」
ッゴクリ。
「食堂派?お弁当派?」
「ホントにいきなりだね。一応、お弁当だけど?」
「食堂派だったら聞きたいことあったんだけど。残念。ちなみに好物は?」
「後でしょ!」
「だよな!」
緊張していた糸が一気に弾けた。猫又くんはガッツポーズまでしているし。
後派はガッツポーズするほど希少種じゃないよ。なんなら先派より絶対に多い!最後好きな味で終わりたいじゃん。嫌いな味でちょっとの時間も過ごしたくない。
「食堂派だったらなんて聞くつもりだったの?」
「入学してから三ヶ月ちょっと経つけど食堂で食べたことないから感想を、と思いまして」
私も食べたことない。友達の付き合いで行って見ただけ。カレーやうどん、ご飯ものの定番。たこ焼きやフライドポテトとか小腹を満たせるやつもあった。
にぎわってる記憶もあるが、美味しいともまずいとも聞かない。その意味では評判通りではありそう。
あ、これ仕返しのチャンスじゃない?
「もしかして、一緒に食べる友達探してたりして」
食らえチクチク言葉。先手必勝だ。
「話初めて二日目の人に言っていい言葉ですか?」
「質問に質問で返さないでもらっていいですか?」
「ここに来てる理由考えてもらっていいですか?・・・」
えっと、一応ネタのつもりではあったんだけど。もしかして、急所に当たったになっちゃうとは・・・。
先に慰めた方がいいのか。先に謝った方がいいのか。分からない。こんなこと学校では教えてくれなかった。
「・・・昼休みのあった最初の日。眠くて寝てたらそれ以来メンバー固まってるし、仲良いとこに入ろうとしてもイスないし、机ないし、場所ないし。早く飯食ってここに来るのがいつの間にか日課になってた」
もう友達作りを失敗する典型例だ。寝たフリよりはマジだけど、本当になってしまうんだな。私も一歩間違えばこう・・・。
「だ、大丈夫、大丈夫。色んな人話してるじゃん。昼休みの最初のほうに声掛けてみれば」
「申し訳ないし、今さら?たぶん、あいつらは気にしないと思うけどさ~」
液体のように力を抜けきってソファから崩れ落ちていく。"えぇぇ~、あぁぁぁ"と抜けた声でうめく。
ちょっと可愛い。"ガハハ、人の不幸は蜜の味じゃあ!!"と言ってた人と同一人物とは思えない。
ここで予鈴が鳴った。
私は当番表に記しをつける。
その間に猫又くんは本を戻して先に帰った。
きっと明日も来るんだろうなとその背中を見送った。