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9話 「屋上へ」

 結局紫音の真意を知ることができないまま学校に向かう。いつものようにバスの中で美佐と出会い、そのまま一緒に登校する。


「おいっす。今日も仲良いな、お二人さん」


 教室に入った俺達に最初に声をかけてきたのは一二三だ。ニヤニヤとからかうような笑顔。


「そりゃそうでしょ。あたしと蒼樹は『友達』なんだから」


 当たり前のように返す美佐の言葉に、俺の胸がずきりと痛む。美佐にとってはあくまでも友達なのだ。クリスマスイヴで距離が近くなった俺達だが、それまでも、それからも美佐は友人以上に距離を詰めてこようとしなかった。だから、俺が恋心を自覚した時も、恋が叶わないと感じていた。美佐にとってはいつまでも友達のままでしかないのだから。


「そうだな。……あ、そういえば蒼樹、今日はちゃんと教科書を持ってきたのか?」


「流石にな。昨日の今日で麻里香先生に迷惑かけれねえし」


 同じ過ちは繰り返したくない。その気持ちから、今日は登校する前に五回以上鞄の中身を確認した。紫音からやりすぎじゃない? と言われたほどだ。


「良い心持ちだ。褒めて遣わそう」


「お前は誰なんだよ……」


 まるで殿様のような喋り方になった一二三。こいつの悪ノリはいつものことだけど、それに付き合うのは体力がいる。


「そんなことより、放課後どっか食いに行かね? 最近食べ歩きにはまっててさ」


「良いけど、美佐も来るか?」


「いや、あたしはいいかな。外食って……体重も気になるし」


「全然痩せてるけどな。気にするほどか?」


「気にするの!」


 そう言って美佐は自分の席に座る。


「怒らせちゃったかな」


「蒼樹、デリカシーを学んだ方がいいぞ」


 一二三が俺の方に手を置いて呆れたようにため息を吐く。そして、授業が始まるチャイムが鳴った。

 つつがなく進む退屈な授業。俺は時折落書きをしながら、真面目にノートをとるふりをする。

 隣の席では一二三ががっつり寝ている。教科書を立てて先生から見えないように。小賢しい技術だけはやたらと上手いのが腹立つ。


 昼休みになって、親から渡された弁当に手を付けようとしたところ、クラスの女子から声を掛けられる。


「ねえ、蒼樹君に用があるって。別のクラスから」


「俺に用? って、芽依か」


 教室の外で俺を手招きしている芽依の姿を確認。学校で芽依の方から呼び出してくるのは珍しいから、その要件に興味が湧く。


「どうしたんだ?」


「ちょっと蒼樹さんとお話がしたくて。お弁当でも食べながらどうですか? 今なら屋上が開いてますよ」


 白い歯を見せながら決め顔で誘ってくる。一瞬だけ美佐の方を見て、友達と話しているのを確認してから、芽依についていく。


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