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8話 「寝起きの騒動」

 鳥のさえずりが聞こえる。少し空いたカーテンの隙間から白い光が差し込んで、俺を覚醒させる。瞼を開いた俺が真っ先に見たのは、白く細い線の束だ。その線が行きつく先には真っ白な肌と、長いまつげ。桜色の唇。下へ下へ視線を動かすと、紫音が頻繁に着ているお気に入りのパジャマ。身体を少し動かせば、柔らかな感触が感じられる。


「……いや、なんでここにいるんだよ芽依!」


 目の前には、芽依がいた。昨日の夜、紫音の部屋に向かったはずだったが。


「ううん……なんで起こすんですか……まだ眠いですよぅ……」


「眠いとかそういう話じゃない! こんなところ見られたら終わる! 色んなことが終わる!」


 なにを言ってるんだ俺は。パニックになって残っていた筈の眠気が全て吹っ飛んでいった。朝からなんてことをしてるんだ、マジで。


「もう、うるさいですね……って、おはようございます? なんで蒼樹さんがここに?」


 芽依にもこの状況が理解できていないらしい。本人に理解できないことを俺が分かる訳がない。


「ここは紫音さんの部屋……じゃない、ですね。あれ?」


 どうやら本人的には紫音の部屋にいるものだと認識していたようだ。


「あっ、私、寝相が悪いんでした」


「そんなレベルじゃねえよ!?」


 寝相がどうとか正直どうでもいい。部屋と部屋を移動して尚且つベッドに入り込んでくるのはもはや寝相の域を超えている。芽依のとぼけているのか真面目に言っているのか分からない発言にツッコミを入れた直後。俺の部屋の扉が乱暴に開かれる。


「お兄ちゃん、大変! 芽依さんがいなくなって……る……」


「あ、えっと、これはだな……」


 紫音が俺達を見つけた瞬間、二の句が継げなくなる。俺はどう弁明すべきか考えるが、いくら理屈をつけたとて、言い訳にしかならなさそうだ。


「おにい、ちゃん……?」


 そう呟いた後、紫音が倒れる。理解が追い付かない状況に思考がオーバーヒートした。



 朝食は食パンの上に目玉焼きが乗ったシンプルなもの。それを口に運びつつ、紫音が話す。


「それにしても、お兄ちゃんと芽依さんってそんな関係だったんだ」


「違うって話しただろ。芽依は寝ぼけてその辺を歩き回る癖があって、俺の部屋を紫音の部屋と勘違いしてそのままベッドに入ってきただけだって」


「そんなことならないでしょ」


「なっとるやろがい」


 目玉焼きだけ食べきった紫音がバターを塗りながら指摘する。正直、俺も芽依の理屈に納得していない。そんなことあり得ないだろうと今でも思っている。だけど、芽依はサンタアイテムなんて意味の分からない道具を持っているのだから、今更だ。


「いやあ、心配かけて申し訳ないですね。普段はこの癖を抑えてるんですが……気が抜けてたみたいです」


 そう言って笑う芽依は、嬉しそうで――どこか、悲しそうだった。


「すみません。私、先に学校へ向かいますね。一緒に行くところを美佐ちゃんに見られたら色々と不味いですから」


 朝食を食べ終えた芽依はそれだけ言い残して家から出ていく。


「お兄ちゃん、本命は美佐さんだったんだ」


「……そうだな」


「ふうん、そっか。それなら別に特別なことをする必要もないのに」


「どういうことだ?」


「え、まさか気付いてないの? 本当に?」


 紫音の言葉の意味が分からず問い返すと信じられないと言いたげな視線を向けてくる。


「それなら変なことは言わない方が良いか……なんでもないよ」


「そこまで言って隠すのはどうかと思うぞ」


 それでも紫音はなにも言わずパンを口に運んでいる。もう喋る気はないようだ。俺もこれ以上はなにも聞かず、朝食を食べ終えて、登校の準備をする。


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