第54話 「本音」
俺は一二三と力強く握手する。手に伝わる体温の熱さから、頼もしさを感じる。
「演劇は動画を撮るから、終わった後でも見れる予定だよ。だから安心して待っててね」
「はい! 一緒に練習したんですから、見れないともったいないですもんね! 楽しみに待ってます!」
保健室を出ていく一二三と美佐を見送って、またしても保健室には二人しかいなくなった。
「えっと……どうしましょうか、蒼樹さん」
「どうもこうも、ここにいるしかないだろ」
「でも~ただ寝転がってるだけなんて暇じゃないですか~」
芽依が足をばたつかせてアピールしてくる。布団がベッドからはみ出して落ちかけている。
「……なぁ、芽依」
「はいはい、どうかしましたか?」
「芽依はなんでサンタをやってんだ?」
「そうですね。ぶっちゃけるとお父さんがぎっくり腰になっちゃって代理でやっただけなんですけど」
「そんな軽いノリで!?」
お父さんは大丈夫なのか。まずそこが一番心配になってくる。そんな俺の心配をよそに、芽依は話を続ける。
「でも、誰かの力になりたいってのは昔から思ってたんですよ。ボランティアとかにも参加してましたし。高校を卒業したら本格的にサンタを継ぐ予定だったのが早まっただけで……私はそういう星の元に生まれてきたんです」
さっきまでみたいな軽い感じではなく、真剣な口調になった。これは、芽依の本音なのだろう。
「だけど……蒼樹さんと出会ったのが一番大きかったかもしれません」
「俺と?」
「はい。今までも困ってる人を手伝ってあげることはあったんですけど、それってゴミ拾いとか荷物持ちとか宿題を手伝ったりとか。そういう、ちょっとしたことばっかりで。人を救うって大層なことはできなかったんです。そんな私は蒼樹さんのあの現場を見てしまった」
中学時代。芽依が見たという蒼樹のトラウマ。それが、芽依の変化と関係している。
「世の中の人は頑張って色んなことを成し遂げてる。恋人を作るのだって、別れを受け入れるのだってそうです。それなのに、私はちょっと手伝うくらいのことしかできない。その手伝いだって、ちゃんとできてるか自信がない。こんな私じゃあサンタを継ぐのは絶対無理なんだって……ずっと悩んでいたんです」




