第51話 「心配だから」
一瞬、なにを言っているのか分からなかった。芽依が、倒れた。それが信じられなくて、ただ茫然と立ち尽くしていた。
「俺は、芽依のところに……」
本来の予定では俺が告白を終えるまで芽依がサンタアイテムで人が来ないようにするはずだった。それなのに会長が屋上に来れている時点で芽依になにかあったのは予想できた。一応、メッセージで休むようお願いしておいたのはあったが、まだ既読はついていない。もしかしたら、俺がメッセージを送った時点でもう倒れていたのかもしれない。
倒れたのなら恐らく保健室にでも連れていかれただろう。そこに行けば芽依の状況が分かる。分かるけど……
「美佐」
まだ、話は終わっていない。ここで言わなければ芽依の協力が無駄になる。ここまで文化祭を盛り上げようとしたのも、蒼樹の告白の成功率が上がると思ったからだ。そのためにアイテムと自分の身を酷使して頑張った。それなのに、俺がこの場から離れてもいいのか。ようやく、告白の覚悟も決まったというのに。
「蒼樹、行ってあげて。芽依ちゃんも、目覚めたときに一番に声をかけてくれるのは、蒼樹がいいと思うから」
「でも……」
「舞台のことはあたしと会長がなんとかするから、気にしないで。それより、早く」
「……」
「蒼樹が心ここにあらずって感じなのは見れば分かるよ。心配なんだよね、芽依ちゃんのこと。だから、行ってあげて。芽依ちゃんもためにも――なにより、蒼樹自身のためにも」
美佐の言葉で、俺の頭から舞台のことがすっかり抜け落ちていたのに気づく。芽依がどうなったのか、芽依の安否。それしか頭になかった。今にも走り出したいくらいに俺の心を突き動かしているのは……まぎれもなく、芽依だった。
「行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
俺は駆け出し、保健室に向かった。




