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第43話 「その日」

 舞台の練習がなかなかスムーズにいかず、練習は夏休みが過ぎても続いていた。満足できるクオリティになるころにはもう当日が迫ってきていた。


「ついに明後日本番ですね」


 文化祭を間近に控えた帰り道。俺の隣を歩く芽依が呟く。


「ど、どうしましょう緊張してきました……」


「大丈夫だよ、芽依ちゃん。練習したとおりにすれば上手くいくって」


 声が震えている芽依を美佐が励ます。


「蒼樹さん、今日もう一度復習しませんか? やっぱりちょっと不安なので」


「いいけど、どこでする?」


「私の家でもいいですけど、ここからなら蒼樹さんの家の方が近いですね」


「あたしは劇に出ないからなぁ。それに、生徒会の仕事も残ってるし。二人の邪魔したくないから、あたしはいいよ」


「……そっか」


 美佐と別れて、俺たちは家に帰る。


「お兄ちゃん、まーた女の子を連れ込んでる」


「その言い方やめろ」


 帰宅した俺たちを迎えたのは、紫音のそんな言葉だった。


「俺は芽依と一緒に舞台の練習するから、ちょっと声が聞こえてくるかもしれないけど、大丈夫か?」


「おっけーりょーかいらじゃらじゃー」


 紫音の返事があまりにも適当過ぎる。


「お邪魔しまーす」


 自室に向かおうと俺は階段を上る。それに続いて芽依が付いてくる。俺の家に来るのは慣れているはずなのに、ちゃんと挨拶を欠かさないところに芽依の律義さが見える。

 俺の部屋で台本の読み合わせを始める。


「蒼樹さん、いけそうですか?」


「いけそう……かも」


 正直、自信はない。小学生の時に一度演技をやったことはあるが、その時も主役ではなかったし、ここまで台詞を覚えなくてもよかった。


「……蒼樹さん」


「どうした?」


「実は、今日蒼樹さんの家に来たのは練習がしたかっただけではないんです。少し、お話がありまして」


「……急にかしこまってなんだよ。そんなに大事な話なのか?」


「はい」


 芽依は台本を机の上に置いて、俺の目を見つめてくる。


「正直、美佐さんが来なくて良かったです。この話は聞かれたくなかったので」


「引っ張るなよ。気になるって」



「――蒼樹さんが告白する日を、文化祭当日にしましょう」


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