第42話 「主役乱入」
「とりあえず演技に集中しよう」
「はい……」
俺たちを見る周りの目線が生暖かいものになっている気がして若干気まずい雰囲気。だけど、気にしないようにするしかない。
練習が終わったのは二十時を過ぎた頃だった。休憩が終わってからは同じシーンを何度かやってみて覚える感じの練習をしていた。まだまだ序盤しか覚えきれていないけど、初めてにしては上手くいった方だと思う。
帰る準備でも始めようかという雰囲気になった体育館の中、そこに一人の男子生徒が入ってくる。
「蒼樹! お前が舞台に出るなんて聞いてねえぞ!」
「お前、誰だっけ」
「文月一二三ですけど!? お前の! 友達の! 忘れてんじゃねえよ!」
「冗談だよ。忘れてねえって。……ところで苗字はなんて言うんだっけ」
「忘れてんじゃねえか!」
ちゃんと覚えてるけど、ノリがいいからついからかってしまう。
「舞台なんて目立つところに出やがって! しかもオレの許可もなく!」
「なんで一二三の許可がいるんだよ。ていうか、やりたかったなら代わる……」
と、その先を言おうとした瞬間、俺の袖が引っ張られる。原因は芽依だった。芽依がなにかを言ったわけではないけど、悲しそうな表情を見てしまって迂闊な発言はできなくなった。
「……わけにはいかないけど、他の役なら空いてるのもあるからできると思うぞ」
「オレは主人公がやりたかったよせっかくなら! 目立つし! でも、蒼樹が幸せならオッケーです」
「勝手に納得するな」
もはやなにしに来たんだよこいつ。
「蒼樹、台本貸してくれ!」
「あぁ、いいけど」
コピーすれば台本はまた作れるし、と一二三に手渡す。すると一二三はパラパラとめくりながら俺に向けて宣言してくる。
「主役の台詞覚えてくるから、今度どっちが演技上手いか勝負しようぜ!」
「……負けたらどうなるんだ?」
「悔しい!」
「それだけかよ」
どんだけ主役を演じたかったんだ。芽依に頼む前だったら交代してやれたんだけどな。
「じゃ、そういうことで!」
台本を受け取るなり体育館を去っていく一二三。すぐに見えなくなり、俺は思わず声を漏らした。
「嵐のような奴だったな。知ってたけど」
多分一二三も一二三で文化祭の準備をしているはずだ。忙しさが一周回ってハイテンションになっているのかもしれない。……多分。
「えっと……帰りましょうか、蒼樹さん」
一二三の謎テンションについてこれない芽依が困ったように眉を寄せながら、そう言った。




