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第41話 「アクシデント」

 道具づくりと並行して演技の練習も始まった。俺は台本を読みながら芽依を待っていた。芽依は未だに各所から頼られる状況が続いている。だから何度か芽依にヒロイン役を交代するよう提案していたが、悉く却下された。


「すみません! 遅れました!」


 放課後、芽依が俺たちがいる体育室に現れたのは六時半を過ぎた頃だった。


「また他のところに呼ばれてたのか?」


「はい。どうしてもと言われまして……」


「無理なら辞めていいって言ってるのに。それと、芽依はそろそろ手伝いを断ってもいいんだぞ」


「流石にどうしてもと言われたら断れなくて……。それに、私が演者になるのは私がやりたいと思ってるからです。心配はありがたいですけど、全然へっちゃらです。気にしないでください!」


「……」


 芽依が無理をしているのはなんとなく分かる。俺もそこまで鈍感じゃない。だけど、無理やり休ませようとするのは芽依の意志を無視した行動だと思ってできなかった。


「じゃあやりましょう! 台本に目は通してきましたし、台詞も大まかに記憶しています!」


 この場にいる全員が心配そうに見守る中、演技の練習が始まった。初回ということもあって参加者のほとんどが台詞があやふやだったり、棒読みだったりした。しかし、その中でも芽依だけは台本も持たずにはきはきと台詞を読み上げていた。


『私もサンタになりたいんです。――ずっと、憧れてました』


『悪いが、一般人を連れていくことはできないんだ』


 俺と芽依は見つめ合いながら演じる。俺は台本を読みながらでぎこちない。芽依は覚えているという言葉の通り、迷いなく話している。

 ワンシーンを演じ終わって、休憩に入る。体育館の端で座り込んでいると、美佐が俺と芽依に飲み物を手渡してくる。


「二人とも、お疲れ様。特に芽依ちゃんの演技上手だったよ。忙しそうなのに頑張ってるね」


「ありがとうございます! 美佐さんの台本がとてもすごかったので、頑張らないとなと思てたんですよ~」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、芽依ちゃんも頑張りすぎは禁物だよ」


「それさっき蒼樹さんにも言われました。そんなに無理してるように見えちゃうんですかね……。でも、私は蒼樹さんと美佐さんに心配してもらえるだけで幸せです。いくらでもやる気が出てくるんですよ」


 芽依は自分が無理していることに気付いてないみたいだ。もしかしたら、本当に芽依は普通の行動をしているだけなのかもしれないとすら思えてくる。


「そろそろ練習の続きを始めようか」


 演者を仕切っている生徒会の人物が休憩時間の終わりを宣言する。俺と芽依も立ち上がり、再び壇上に上がろうとする。その時だった。


「あ、れ……?」


 芽依の足元がふらつく。俺は反射的に芽依の背中を支えるも、抱きかかえるような体勢になってしまう。


「大丈夫か?」


「…………ぁう」


 芽依が顔を真っ赤にして俺を見つめている。そこで俺も今の自分の姿を客観視でき、羞恥心が込み上げてきた。


「わ、悪い」


「いえ……私も、嬉しかったので」


 もじもじしながら芽依は小さく呟く。周りを見渡すと、みんなの視線が俺たちに集まっていた。

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