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第39話 「忙しない教室」

 ついに台本が完成し、本格的に準備が始まったのは夏休みに入った頃だった。俺は段ボールや発泡スチロール等の小道具を作る材料を借りてきて、教室に向かうところだ。

 俺は隣を歩く美佐に顔を向けて、言う。


「美佐、出来上がった台本読ませてくれないか?」


「ん、いいよ」


 見本誌を手渡されて、俺は台本に通す。内容は芽依の要望通りサンタを主軸にした作品だった。

 サンタに憧れる少女の元に本物のサンタが現れる。少女はみんなに幸せを届ける立派なサンタとなるべく見習いサンタとしてついていくことを決意する――という始まりだ。

 様々な人との出会いを通じて少女は成長していき、最終的に師匠であるサンタと結ばれてハッピーエンド。


「これ、誰がどの役か書いてないけど、決まってないのか」


「一応主役は蒼樹にしようと思ってるけど」


「俺かよ!?」


 主役になれるほど整った見た目をしている自信はない。


「舞台に関しては私が一任されてるから、蒼樹が嫌なら融通を利かせることもできるけど……」


「多分ほかに主役やりたいってやつがいたらそっちに任せてくれ。最悪俺が頑張るけどさ」


「了解。あ、ちなみにヒロイン役は芽依ちゃんにしようかと思ってるよ」


「……そうか」


 もし仮に俺が主役を辞退すれば、他の誰かが芽依が演じるヒロインと結ばれるわけで――


「……演技だ。ただの、演技だから」


 少しもやっとした自分の心を落ち着ける。どうして平常心が乱れたのか、俺自身もよく分からないままに。


「芽依ちゃんは教室にいたよね。小道具づくりの担当だし」


「そうだな」


 教室が近づいてくるたびに沢山の声が聞こえてくる。その中でも飛びぬけて大きな声は俺たちもよく知っている声だった。


「ユールラッズさん売り切れです~! これ以上は手が回りませ~ん!」


 声だけで慌てているのが分かる。俺たちが教室から離れている間に大変なことになっているようだ。


「あっ、蒼樹さん良いところに来てくれました!」


 教室に入ってきた俺たちを見るなり芽依がこちらに駆け寄ってくる。


「材料も人でも足りなかったんです! 手伝ってください!」


「ああ、分かった。……けど、小道具づくりってそんなに忙しかったのか」


「えっと、それがですね。私がサンタアイテムを使ってるところを見た人たちから応援を頼まれちゃいまして……最初は大道具とかの準備から始まって、屋台の準備とかも引き受けちゃいまして。そうしたらいつの間にかとんでもないことに」


「全部引き受ける必要はないんだぞ。あんまり無理すると体調も崩すだろうし」


「お気持ちはありがたいんですが……私はサンタですよ。誰かの助けになる、誰かを救う。それがサンタとしての役割です。多少無茶でも、私はそれがしたいんです」


 芽依の志は立派だけど、無理しているのは明らかだった。それを、見て見ぬふりなんてしたくない。


「俺も手伝うよ。芽依だけに負担はかけたくない」


「わ、ありがとうございます!」


 喜ぶ芽依を横目に、美佐が俺に耳打ちしてくる。


「この感じだと、芽依ちゃんに舞台のこと頼めそうにないね」


「そうだな」

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