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31話 「励ましの言葉」

「芽依……ごめんな」


 ――俺は一体、どれほど残酷なことをしていたのだろう。俺のことを好きになってくれた人に恋の応援をさせていたなんて。

 知らなかった気付かなかった。そんな言葉は言い訳だ。「美佐と付き合いたい」という俺の願いが芽依を傷つけていた過去は変わらない。


「俺は……なんてことを……」


 罵倒されても仕方ない。寧ろ、芽依が俺を責めないのが不思議なほどだ。全く辛そうな素振りも見せず、本気で俺のためになにかをしようと頑張ってくれていた。あれも全部、やせ我慢だったのだろうか。

 思いつめていたからか、近づいてきた足音に気付かなかった。


「あれ、蒼樹じゃん。ここにいるの珍しいね」


「美佐、か……?」


 聞き覚えのある声。間違いなく、美佐の声だった。


「なんでここに?」


「普通に下校途中だけど。生徒会の仕事が長引いてさ。蒼樹こそなんでこんなところに座ってるの? ブランコで遊びたかった……なんてことはないんでしょ? その顔を見るに」


「そうだな。ちょっと自分に嫌気がさしちまって」


「ふうん。そういう蒼樹のネガティブなところ、久しぶりに見たかも」


 女性不審だった頃のことだろう。


「なにがあったとかってのは、話せない?」


 嘘偽りない事実を話そうとすると、俺の気持ちを伝えなくてはいけない。それに、芽依の想いを言いふらしたくもなかった。静かに首を横に振る。それだけで美佐はなにかを察してくれたようだった。


「そっか。なら隣に座らせてもらうね」


 空いている隣のブランコに美佐が座る。


「人には話せない秘密の一つや二つはあるよね。そういうときは隣に誰かいた方が気が楽だと思うから。私が同じ立場だったら、きっとそう思う」


「……ありがとう」


「お礼なんていいよ。だって私たち、『友達』でしょ?」


「そう、だな。友達だもんな」


 自分で「友達」という言葉がすっと出てくることに驚く。つい最近まで、その言葉を美佐の口から聞く度に心が痛んだのに。


「ちょっとだけマシになった。助かったよ」


「そう? じゃあそろそろ帰ろう。冬は過ぎたけど、まだまだ寒いから。身体、冷えちゃうよ」


「そうだな」


 俺たちは立ち上がると、公園の外に出る。


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