19話 「暑がりサンタ」
手を繋いで次に向かったのは、ジャングルを模した場所を船で周るアトラクションだった。芽依がおすすめの場所だと言っていたが、恐らく俺の体調を気遣っての提案だろう。
俺達以外にもたくさんの人が乗って、船が出発する。ガイドの人が木の陰からキャラクターが出てくるたびに解説を入れる。そうして進んでいると、滝が目の前に迫ってきていた。
「この辺りは水しぶきがかかる可能性があるので、事前にお渡ししていたカッパを着用してくださいね~」
透明なカッパを被って、滝の近くを通り過ぎる。家族で乗っていた客に盛大に水がかかり、叫んだり歓声を上げたりしている。
ルートを完走して、カッパを戻してから、外に出る。
「あ、なんか冷たいと思ったら、スカートが濡れちゃってますね。意外とカッパの防御力が低かったです」
そう言って、芽依がスカートをはたく。水に濡れたスカートが足に張り付いて、雫が滴り落ちる。なんだか見てはいけないものを見ているようで咄嗟に顔を背ける。
「俺、タオル持ってきてるからこれで拭けよ」
「おおー準備が良いですね、蒼樹さん。だけど大丈夫です。こういう時のサンタアイテムですから!」
すると芽依がおもむろに服を脱ぎだす。
「馬鹿……こんな人前でそんなこと……っ!」
芽依の凶行を止めようとしたとき、気付く。芽依は私服の内側にもう一枚、服を着ていた。見慣れたサンタ服だ。
「準備が良いのは蒼樹さんだけではないのですよ。……ところで蒼樹さんはなにかを期待されてたので?」
「期待してない」
失礼な。芽依がサンタ服を事前に来ていることなど予想できていた。……いやそれは嘘だ。
どこからともなく取り出した白い袋からドライヤーのようなものが出てきた。
「これぞサンタドライヤーです」
「ただのドライヤーじゃねえか」
感情の動きを計測する道具だったり姿を消す道具があるくせに、今出てきたのは紛れもなくドライヤーだった。
「いえこれは普通のドライヤーじゃないんですよ。ところでコンセントは、っと……」
「ただのドライヤーじゃねえか」
電源いらずの不思議アイテムかと思ったら電源はいるのかよ。ならもう一般的なドライヤーでしかないだろう。
「いやまあ、コンセントなくても全然動くんですけどね」
「じゃあ今の流れいらなかったよな!?」
普通に動き出すドライヤー。よく見ればコンセントプラグもなかったわ。
「これで完璧です!」
完全に乾ききったスカート。それを履いて、私服姿に戻る。
「普段からずっと内側にサンタ服を着ておけば良いのに。そしたら前のくじ引きの時も困らずに済んだだろ」
「いやー私暑がりなもので、サンタ服と私服とを一緒に着ると暑くて暑くてしょうがないんですよね。蒼樹さんの隣を歩くのに汗だくは嫌ですし、基本的には着たくないですね。今日は一段と寒いって天気予報で聞いたので着てきましたが……」
「暑がりか。冬が得意で夏が苦手って、まさにサンタが適任だな」
「私の家系は代々暑がりなのでその影響かもしれませんね。サンタの家系……って言うと格好、よくはないですね。別に……」
若干落ち込んでいるように見えるのは気のせいじゃないだろう。確かにサンタの家系って格好よくはないけれども。
「そんなことより、次のアトラクションに行こうぜ。まだまだいっぱい乗らなきゃいけないんだからさ」
空気と話題を変えるべく、俺は遊園地の全体図を描いたマップを見ながら話す。正直一日で周りきれないから雑談はそこそこにしておきたい。
閉園時間ギリギリまで粘ってアトラクションを回ったが、実際に遊べたのは三分の一くらいだ。いや、一日だけならこれでも上出来なくらいか。
帰りの電車に揺られていると、俺の右肩に軽い衝撃が訪れる。見ると、芽依が俺に身体を預けていた。
「今日は結構遊んだもんな」
一日中歩き回って、はしゃいだら疲れるに決まってる。
「……お疲れ様」
気持ちよさそうに眠る芽依を眺めて、労う。




