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16話 「ちょとした気遣い」

 年が明け、俺は初詣に来ていた。隣には美佐がいる。美佐は着物を着ていた。見慣れない格好に思わず視線が向かう。


「どうしたの? あたしの顔になにか付いてる?」


「なにも付いてないよ。似合ってるなと思って」


「そうかな。嬉しい、ありがとう」


 神社の境内で、カップルのような会話をする。少しだけ気恥しい。直後、俺のスマホが振動を始める。メッセージを受信した合図だ。


『美佐さんの好感度が上昇しています! 流石です蒼樹さん! さすあお!』


 送信元は芽依。年明けだからかテンションの高さが文面から伝わってくる。

 というか、好感度を調べるアイテムまで持ってんのかよ……


「さすあおは二度と言うな」


 見えないけど恐らく近くにいるだろう芽依に向けて、ぼそりと呟く。


『良いじゃないですか! 最近の私のマイブームなんですよ!』


 さすあおがブームを始める世界戦なんて滅びればいいと思う。


「なんかメッセージいっぱい来てるね。蒼樹は人気者だ」


「いや、美佐の方が圧倒的に人気だよ。実は男子生徒の中で流行ってるクラスの可愛い子ランキングでは美佐が一位なんだぞ」


「なにそのランキング。今作ったでしょ」


「バレたか」


 美佐が笑う。実際にそんなランキングは存在しない。美佐の言う通りさっき俺が適当に作ったものだった。

 美佐から二人でお参りしようと誘われ、俺は少しだけ悩んだ。美佐とのデートに集中しようと思って考えないようにしていたことが頭に浮かんでくる。


「悪い。お参りの前にお手洗い行ってくる。ちょっと待っててくれ」


「あ、うん。全然良いよ。この辺りで座って待ってるから」


 美佐の返事を聞くや否や、俺は走り出す。そして人気のないところで立ち止まる。俺の周りにトイレはない。もとより、そんな用事じゃなかった。


「なぁ、芽依。近くにいるんだろ?」


 俺が声を発した直後、なにもなかった空間が歪み、そこから人影が現れる。芽依が手に持っているのは布で作られたマントのようなもの。姿を隠すアイテムなのだろう。


「はい。バッチリいますけど……どうしたんですか? 急にこんなところまで来て。ここにはお手洗いなんてありませんよ?」


「それは建前だからな。ちょっと美佐から離れたかった」


 俺の言葉の意味が分かっていないらしい。芽依が首を傾げてこちらを見つめてくる。


「やっぱり、芽依も一緒に初詣行こう。姿隠さずさ」


「でも、二人のデートに私は邪魔者では……」


「美佐も芽依を拒否しない。それに、初詣の思い出が他人のためのサポートなんて、寂しいよ。サンタだから、人の役に立ちたいって気持ちはすごく良いことだと思うけど、芽依はサンタの前に一人の女の子だ。だから自分が楽しいって思えることを優先して良いんだよ」


 朝から、芽依は言っていた。俺のサポートをするために隠れて付いていく、と。芽依の気持ちに応えようと、美佐を楽しませて距離を縮めようとしていた。だけど、やっぱり芽依だけ仕事ばかりなんて、無視できなかった。


「芽依が仕事大好きでそれだけが生きがいってレベルなら別に良いんだけど、そうじゃないなら、一緒に楽しもうぜ。新年なんだからさ。年の始めは楽しくないと」


「……やっぱり蒼樹さんは良い人ですね」


「女の子を気遣うのは男として当然の行為だ……って、ちょっと前までできてなかった俺が言うのもなんだけど」


 以前の俺自身を思い出す。女の人にやさしくできなかった自分。あの時期に芽依と出会わなくてよかったと本気で思った。


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