12話 「商店街にて」
マイペースな芽依に困惑するも、無理しない程度に付き合ってくれる軽さに安心する。
皆がラーメンを食べ終えるまでしばらくかかった。店のBGMと麺をすする音だけだが響く空間。それが止まってから俺達は席を立つ。
「ここはオレが払っておくから先に出て良いぞ」
「悪い。後から俺と芽依の注文した分渡すよ」
店員に手間を取らせないように、基本割り勘はしない。一括で払ってから、払ってくれた人に自分の注文した分を渡すスタイルでやっている。
先に店を出た俺と芽依は店に入る人の邪魔にならないところで待機するつもりだったが狭い道の中に立つとどうしても邪魔になりそうだ。大通りの方に出ようと芽依を連れて歩く。
「良いんですか? お店から離れちゃって」
「メッセージは送っとくから大丈夫。それより、他の客に配慮した方が良いだろ」
芽依の手を引いて大通りに出ると、往来を歩く人々が視界に入る。そこまで来たところで自分が芽依の手を握っていたことに気付く。
「あっ悪い。気付かなかったんだ」
「いえ、大丈夫……です……」
芽依が俺の握っていた手を見つめている。歯切れの悪い言い方をしていたし、不機嫌にさせてしまったかもしれない。
「芽依? どうした?」
「ひゃい! あ、蒼樹さん! 驚かせないで下さいよ!」
「ボーっとしてるから心配になって。体調悪かったら帰るけど……」
「全然たいちゅ……体調悪くないです!」
「嚙みかけたな」
知り合いとはいえ、いきなり異性に手を繋がれたら動揺もするか。それにしても芽依は動揺しすぎだと思う。
道路の端で立ち止まり、一二三を待つ。少し経って大通りに出てきた一二三が俺達を発見し、向かってくる。
「悪い悪い。財布が見つかんなくて遅くなっちまった」
「なくしてたのか?」
「普通にポケットに入ってた。たまにあるんだよな。持ってんのに何故かないと思い込むとき」
「あ、それは俺もあるかも」
眼鏡をかけているのに眼鏡を探す瞬間もあるように。俺にもそういった心当たりがあった。
「どうせここまで来たついでだし、カラオケとか行くか?」
一二三が指差したのは高層の建物。三階にカラオケ店の看板が見える。
「どうする? 芽依」
「私は良いですよ~」
「じゃあ決定だな」
カラオケ店に向かって歩き出す。その途中で拡声器を持った人物が大通りの人々に向けて呼びかけていた。
『今だけなんと、千円以上お買い求めでくじ引き券をプレゼント致します! 一等はなんと、デズニーランドの年間パスですよ~!』
俺達の足が止まる。
「すっげえタイムリーだな。デズニーランドの年パスあれば美佐ちゃん誘えるし、挑戦してみねえか?」
年末だからとにかく商品を売りさばきたいのだろう。一二三の言う通り、年間パスが貰えるなら好都合だ。
「千円以上か……五回は引きたいから五千円くらいか。余裕だな」
俺はくじ引き券を貰うべく、方向転換して店に向かう。その直後、何故か芽依がキョロキョロと周りの様子を伺いだす。




