表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

綺麗なままで笑って2

その日も私はローカルラジオのアシスタントの仕事でラジオ局に来ていた。

入館してすぐに、長野陽那の姿が目に入った。

彼女もこちらに気がつき、大きく手を振ってきた。


「わー、久しぶり!これからお仕事ですか?」


「あ、うん」


「そっか、私はね、今終わった所なんです」


彼女の話には心底興味がなかったし、中身のない上辺だけの会話に付き合う気は無かったので


「そう」


と、だけ返しその場を去ろうとした、すると彼女が


「あ、そうだ、今からのお仕事の後に予定とかってあります?」


なんて聞いてきた


「え、いや、ラジオの後は特に」


私は思わず、正直に答えてしまった。


「本当ですか!?あの、よかったらどこかでお話しでもしませんか?」


「え?」


突然の誘いに困惑しながらも、何を思ったのか私は


「まあ、別にいいけど」


その誘いに乗った。


「やったー、じゃあ私、中で待ってますね!」


相変わらずわざとらしい大袈裟な反応、私に媚びてこの子に何の得があるのかは分からないが、この子の素の部分をさらけ出してやりたいという意地悪な気持ちが沸き上がった。


ラジオの放送が終わり、ブースを出ると、近くの椅子に長野陽那が座っていて、私と目があうと嬉しそうに手を振ってきた。


(1時間程待たせたのによく嬉しそうに笑っていられるな)


長野陽那と共にラジオ局を出て、近くの喫茶店へと入った。


「ここの喫茶店にはよく来るんですか?」


「敬語、使わなくていいよ。同い年でしょ」


「え?あ、じゃあ、そうします、じゃない、そうするね」


彼女は照れくさそうに笑う、そんな姿を見て私の心は冷めていく一方だった。


「あのさ、いつまでそのキャラでいるつもり?」


「え?」


「ラジオ局内にいるときはまだわかるよ、偉い人とかにアピールしなくちゃだもんね。でも今は私しかいないし、私にアピールしても何にもならないと思うんだけど」


私は口調を荒げるでもなく、淡々と彼女に対して言ってやった。

彼女は啞然としたような表情で、馬鹿みたいに口を開いていた。


「あ、えっと、ごめんなさい」


長野陽那は勢いよく頭を下げ、テーブルに額をぶつけた


「いったー!あ、ご、ごめんね」


「いや、だからさ...」


訳が分からなかった。

彼女が何の目的があって私相手にぶりっ子しているのかが全く理解できず、正直怖いとさえ思った。


「まあ、もういいよじゃあ。そういうキャラを徹底してるんだね。」


「?」


彼女はキョトンとした顔で首をかしげる

私は何だか馬鹿にされている気分だった。


「アンタは何でアイドルになろうと思ったの?」


私はなんとか彼女の素顔を暴いてやりたくて仕方がなくなったので、相手の事を掘り下げてみることにした


「えっと、ありがちな理由なんだけど、子供の頃に好きだったアイドルに憧れて」


「あー、ね」


「最初はね、かわいいなあって思ってたの。お顔がすっごくかわいいっていうのもあるけど、衣装とか、曲とか、踊りとか、仕草とか、全部かわいいって思って」


「へえ~」


「でね、ある時、他のアイドルが熱愛のスクープで謝罪しているニュースを見たの。その時私、お母さんに聞いたの、なんで恋愛をして謝ってるの?って。そしたらお母さんが教えてくれたんだ。アイドルっていうのはファンのみんなのものなの。だから誰かのものになっちゃダメなんだ、って」


「...」


「その時はピンと来なかったんだけど、でもだんだん成長して意味が分かるようになってきたの。で、私が高校生になった頃に、その好きだったアイドルが卒業を発表して、芸能界からも引退しちゃったの。結局そのアイドルは引退までの間に1度もスキャンダルは無かったんだ、そのアイドルは人生をアイドル活動に、ファンに捧げていたんだよね。」


「...」


「そのアイドルが引退した後、私は初めて理解したの、そのアイドルはアイドルとして最高にかっこよかったんだって。人生を捧げてファンに夢を与え続ける最高にかわいくてかっこいい職業、それがアイドルなんだって。私はこの子から沢山の素敵な夢を見せてもらっていたんだって!それで私、居ても立っても居られなくなって、私もアイドルになりたい!私も誰かに夢を与えられるアイドルになりたい!って思って、オーディションとか色々受けて今の事務所に入ったんだ」


気が付けば私は、彼女の話しに真剣に聞き入っていた。

話し終えて彼女はまた照れくさそうに笑った。

どうやら私は勘違いをしていたのかもしれない、勝手に決めつけていたのかもしれない

アイドルなんてのは自己顕示欲の塊だったり、イケメン芸能人と付き合いたいだけだと思っていた。

だけど彼女は、長野陽那は正真正銘、本物のアイドルなんだ。


「うー、私だけ恥ずかしいよぉ...ねぇ、次はアナタの番だよ、どうして歌手になろうと思ったのか、教えて?」


「あ、あぁ、えーっと、そんな大した理由はないんだけど...」


この日をきっかけに、私と長野陽那の距離が縮まり、お互いに連絡をとり合ったり、遊びに出掛ける仲になった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ