プロローグ 01
いつも拙作をお読みいただきましてありがとうございます。すずすけでございます。
こちらの内容は、シリーズ『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~強奪者と目覚める傲慢~』の内容となっています。私のシリーズ管理方法の見直しにあたり、統合することに致しましたので、こちらへの投稿が完了次第、『~強奪者と目覚める傲慢~』を削除致します。
ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い致します。
〇
そこは商業区にあるとある建物の一室。
調度品に囲まれた部屋だが、そこに並ぶ品々は高価なものであることは分かるが、どこか品のない俗なものばかり。
即席で富豪となった成金が、その財力にものを言わせた金による暴力。そんな値段が透けて見える程に分かりやすい調度品に囲まれながら、何かに怯えるように小さく木製の椅子に座る青年が一人。
普段の彼は気が強く、他者を怯えさせることはあっても自身が怯えることはなかった。目は口ほどに物を言うが、彼の場合はまさにその目が彼の傲慢さを物語っていた。
「……どうしたら……。どうしたら……」
だが、今の彼の目にはそんな歪んだ自信すらも無く、ただただ不安の色に染まっていた。
「お父様は、……本気だ」
彼の耳に残るのはとある言葉。
相手を屈服させるための恫喝でもなければ、罵声でもない。その声色だけを取れば、穏やかさを感じてしまう程に優しいもの。
それが甘ったるい毒のように、彼の内部を緩やかに侵していく。
激しい衝動に駆られる訳でもなく、ただただその毒が完全に回ってしまうことが恐ろしい。それでも彼はその解毒方法を知っている。
そして毒の侵食速度は幸いにも緩やかであり、彼には十分にその対抗手段を取る時間もあった。
『……私は、生命は尊いものだと思っている。無用な殺生は良くない。だがな、お前の母親がお前の弟、もしくは妹を孕んだ時、お前はソビ家の呪いを受けることを意味するぞ? うん?』
思い出して再び彼――、ダリアス=ソビは身震いした。
そんなダリアスの後ろで、ゆっくりとドアが開き一人の女性が入ってきた。
「あら、ダリアス様? 寒いのでしたら温かい紅茶でも持ってきますが、いかがしますか?」
丁寧な言葉遣いでダリアスに話しかける女性だが、淡々と話す彼女に彼への敬意はまるで見られない。
「いや、いい……。僕が口にする茶葉は決まっている。お前程度がそれを持っているとは思えない。無駄になるだけだ」
彼女より一回りも歳の若い青年が、怯えながらもその傲慢さ故の自尊心からものを言っている姿に女性は小さく笑う。
ダリアスの心の状態など、この女性にはお見通しである。
「そうでございますね。私の持っている茶葉などソビ家の物に比べれば安物も安物。そこらの雑草と変わりませんものね。坊ちゃまが飲まれるような代物にはございません」
そう言って彼女はダリアスの前にコップを一つ置き、向かいに座る。
中に入っているのは何かと、覗き見るダリアスに女性はもう一つのコップを自ら傾け、喉に流し込んでから答える。
「ただの水ですよ。一応、浄化したものを持ってきていますが、ソビ家が水の産地まで拘るようでしたらどうしようもありませんわ」
肩をすくめてコップを置く女性。
それを尻目に、ダリアスも静かに水を飲み始めた。
「……さすがのソビ家でも、水の産地までは拘らないようですね」
ニヒルに笑い、ダリアスを眺める女性。
喉を潤わせたダリアスが、一拍置いて口を開いた。
「それで、僕をここに呼んだのはなぜだ? ソビ家の長子である僕を呼ぶんだ、それなりの内容があってのことなんだろうな」
先ほどまで怯えた色をしていた瞳はすでにそれを隠しており、女性の顔を睨みつける。
それをまるで気にすることもなく答える女性。
仲を深めるための世間話も不要みたいですし、と女性は口火を切る。
「なにやらお困りのようでございますわね、ダリアス様? なんでも近頃、周りから足を引っ張られているのだとか」
ダリアスは一瞬、なぜ目の前の女性が彼の今置かれている状況を知っているのかと驚いたが、すぐに女性の言葉に同意する。
「……そ、そうだ。そうなのだ。僕自身が悪いわけではないのだ。だが――、」
「けれど、運が悪いことにダリアス様の『周り』が、ダリアス様には悪い方向に動いてしまっている、ということなのですね?」
女性の優しい声が、温かくダリアスを包み込む。
「……そうなのだ。その結果、お父様の評価も底まで落ちてしまった」
タリッジのことを思い出し、そしてそこから派生するようにして父ゾインの評価が下がったことを思い出し項垂れるダリアス。
「でもどうしようもありませんわ? ダリアス様にはどうすることも出来ないことだったのです。それが運悪くダリアス様にとって不利益に働いてしまっただけのこと」
ゆっくりと頭を持ち上げるダリアスの前には、達観したように語る女性。
「……どうしようもなかった?」
真正面から捉えるダリアスの双眸に映るのは、整った顔立ちの女性。化粧のためか、分かりやすくそのふっくらとした唇を真っ赤にさせ、口を動かす。
頭の位置が女性よりも低い位置にあるダリアス。自然と女性がダリアスを見下げるような角度になってしまっているが、そこに彼は不快感を抱かなかった。
彼女からは見下しているといった雰囲気がない。なんならその瞳からはダリアスに向けた慈しみすら感じさせる。
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