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09

「……くそっ。いてぇ」


 激しい頭痛で目が覚めたタリッジは、二日酔いに効くと言われている粉薬を水で流し込み、普段は飲まないコーヒーを飲む。

 徐々に気持ち悪さや気だるさもすっきりしていき、部屋の中を見回す。


 仲間の数人がおらず、昨夜よりも広く感じる部屋の真ん中のほうで仲間たちが集まり、何かを掲げ見ながら酒を飲んでいた。


(こいつら、俺よりも酒がつえぇな……)


 身体の大きさでいけばタリッジの方が数倍も大きいが、昨夜あれだけ飲んだというのに今もジョッキを傾けている仲間に苦笑しながら、タリッジはそちらの方へ近寄る。


「……ああ兄貴、おはようございます」


「ああ。なんか盛り上がっているみたいだが?」


 そう先ほどまで掲げていたペンダントを覗き込むタリッジ。


「ええ、これが言っていた『聖遺物』です。先ほどスラムの方から拾ってきまして」


 手渡されたペンダントをじっくりと見るタリッジ。


「なるほど、これが『聖遺物』か。それで、これはなんで貴重なんだ?」


「へい。『聖遺物』とは無尽蔵に魔力を生み出す代物なんです」


「……それでもいつかは枯れるんだろう?」


「いえ、魔獣の体内から取れる魔石のようなものとは違いまして。言葉通り、無尽蔵に生み出すんです」


 そう説明を聞き、魔法文化のサンティア王国ではさぞかし貴重な代物だな、とタリッジは納得がいった。


「そうか。これをソビ家の坊ちゃんに渡せば無事収まるってことだな、よくやった。……しかし数人見えないみたいだが、どうした?」


 男は笑いながら「褒美を期待してますよ兄貴」と言いながら頭を下げた。


「ああ。あいつらなら女を攫いに行くとかなんとか言って出ていきましたぜ。別嬪が一人と、奴隷商に卸せそうな女のガキが一人。……まあ、小遣い稼ぎみたいなもんで」


 苦笑しながら頭をかく男に、タリッジは「坊ちゃんの庇護があるとはいえ、程々にしておけよ」と軽く注意する。

 それからタリッジはペンダントを掲げ、真ん中に付いている紫色の小さな宝石を光に当てながら眺める。


 魔法や魔力といったものに疎いタリッジには、本当にこの安っぽいアクセサリーにそれほどの価値があるのかと思ったが確かにペンダントを持つ右手に不思議な感覚があった。

 剣士としての直感がタリッジに訴える。

 このペンダントから覚える違和感、どろっとした気持ち悪さを。


「なんであれ助かった。これを入れる箱を適当に見繕っておいてくれ」


 そう言ってタリッジはペンダントを仲間たちが囲むテーブルに置き、自分の椅子に戻りもうひと眠りしようかと考えた。


「それにしてもあいつら遅いな。……さてはあいつら、勝手に楽しんでいるんじゃないか?」


「くそったれが。抜け駆けはやめろって言ったのにな。戻ってきたらあいつらは当分の間酒禁止だな」


 そうやって酒を浴びる男たちの背後で入り口のドアが乱暴に開かれる。


「ったく、おせーぞ。お前ら、当分酒は禁止だからな! 勝手に楽しんだ罰だ」


 そうタリッジを含めた男たち皆が視線を向けたドアの方には見慣れた仲間の姿はなく、異様な出で立ちの男とこんなむさ苦しい場所には不釣り合いな美女と少女が立っていた。


「そうかい? まあ僕は別にお酒がなくてもコーヒーさえあればいいから構わないよ?」


「エインズ様、彼らの飲むコーヒーなどコーヒーの色をした泥水に違いありません。私の淹れるコーヒーをお飲みください」


「……」


 呑気なことを言う男——エインズの横に立つソフィアも彼に合わせて軽口を叩くが、敵意むき出しである。

 エインズのもう一方横にはシアラが黙って男たちを睨んでいた。


「お、お前ら! さっきのスラムのガキに突っかかってきた女と男か! どうしてここに! あいつらが向かったはずだぞ!?」


 すぐに異変を感じた男たちはジョッキを放り捨て、自分の得物を手に取る。


「ああ、彼らならもういないよ。僕の横にいるシアラが――、」


「……あいつらなら、わたしが灰も残さず燃やし尽くした!」


 エインズはシアラの頭にポンと左手を置き、


「ってことで、よかったじゃないか。君たちの酒代も幾分か安くつくんじゃないのかい?」


 と皮肉りながらにっこりと笑う。

 部屋の後方で勢いよく立ち上がるタリッジ。


「お前、エインズ!」


「君は……、昨日の。悪いけど、今日は君の相手をするためにここに来たわけじゃないからね。今僕は、魔術師エインズ=シルベタスとしてここにいる」


「……魔術師。やはり剣士じゃなかったのか。だがそんなのは関係ねえ!」


 タリッジは椅子の横に立てかけていた大剣を手に取る。


「俺の相棒クレイモアがあるんだ! 昨日のようにはいかねえぞエインズ!!」


「……はあぁ。本当に君は鬱陶しいね」


 剣を向けるタリッジと、それを溜息をつきながら眺めるエインズ。

 その横でシアラが声を上げる。


「あっ! あれはお母さんのペンダント!」


「うん? あれがシアラが言っていたペンダントかい? ……なるほど、あれが聖遺物ね」


 エインズはシアラの指さす先にあるペンダントを観察する。そしてエインズは聖遺物が何たるかをある程度理解した。


「いいだろう、シアラはあれに専念しな」


「絶対に取り戻す!!」


 意気込むシアラ。


「はっ! お前みたいなクズに何が出来るってんだ! 五体満足で奴隷商に卸そうかと思っていたが、まあいい。四肢がなくても生きてりゃ豚の餌にでもなるだろうよ!」


 男たちはシアラを標的に設定し、その得物を向ける。

 それを気にも留めずシアラは紡ぐ。自分の魔術を。自分の欲望を。母親の形見を取り戻すための力、男どもを殺すための力、黒く醜くともシアラが本心から抱く意志の形。

 持たざる者が、理不尽に遭うだけの者が、その弱肉強食の摂理に抗い、干渉するための力の構築。


「限定解除『黒炎の意志(ボリション)』!」


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