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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第2部2章 落ちる鱗

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07



 巨大な体躯に、ぎらついた瞳。丸太のように太い腕、人の頭を掴んで潰せるのではないかと思えるほど大きい手で握るは、彼の体躯に見合う巨大な大剣。

 それを胸の前で盾のように広げ、彼とは正反対に細い体つきの男の鋭い蹴りを凌ごうと試みる。

 激しい剣戟に、嵐のように劇的に変化していく戦況。


 右腕はなく、左脚に簡易な義足を履いている細い男の名前はエインズ。

 斯く斯く然々な理由からエインズと打合いを行い、今こうして彼の蹴りを防いでいる岩のような体つきの男の名前はタリッジ。

 試合が始まった当初、簡単にケリが付くと予想していたタリッジだったが、彼の予想通りに事は運ばれなかった。


「……くっ」


 今こうして防いでいるのだってやっとのことである。

 両者の間には身体的ハンデが数多くある。圧倒的にタリッジが優位。

 しかし状況は、その優位性がなければかえって負けてしまうのではないかと冷や汗をかくほどの実力がエインズにはあった。


 刃は潰してあるものの、その刀身と簡易な義足ではどちらの耐久力が上かなど火を見るよりも明らか、だとタリッジは思った。

 だが、次の瞬間には大きな手で握る柄を残し、そこから伸びる刀身は粉々に粉砕されていた。

 タリッジの手に痺れはなかった。つまり、重く鈍い衝撃が加えられたわけではないことを意味する。


 局所的で瞬発的な衝撃は、その波がタリッジの手に伝わるよりも早く刀身を粉砕したのだ。

 呆然とするタリッジ。

 それを冷めた目で見つめ、追撃の体勢を取らないエインズ。

 審判役を買って出たハーラルでさえ、その試合の予想外な幕切れに呆気に取られてしまっていた。


 そこから先のことをタリッジはあまり覚えていない。

 正気を取り戻したハーラルの一声により試合が終結し、ハーラルが会場を離れた後、ダリアスから苛立った様子で声をかけられ、ソビ家屋敷に戻った。

 帰路ではダリアスからタリッジへの言葉はなく、ぶつぶつと彼は一人呟いていた。


 そのダリアスの横でタリッジはエインズとの打合いをずっと振り返っていた。

 剣技としてはガイリーン帝国でも上級剣士と呼ばれるほどの腕はあったように思える。加えて、剣王以上の剣士が使えるとされる『神力』をタリッジが使えばエインズもタリッジと対等に渡り合うほどの『神力』を使用した。

 なんならエインズの方がタリッジよりも洗練された『神力』を使っていたように思えるほどであった。


「……ここで神力を使うやつなんて初めて見た」


 『神力』とは、体内から湧き上がる力を身体に巡らせ身体能力以上の強大な力を発揮することだ。しかしこれが身体にかける負担は軽くない。

 適した動きに加え、身体の動きを理解していなければ『神力』によって膨れ上がった力が暴走してしまい自身の身体を破壊してしまうのだ。

 だからこそ『神力』を使用できるのは剣技を十分に修めた剣王以上と言われているのだ。


「……流派は不明だがかなりの剣技、神力は俺よりも優れている。……なのに、どうしてだ?」


 エインズの目に熱意がなかった。冷めきっていた。興味もなく、剣に対して思い入れも感情も何もない。まさに道具を扱うように振るっていた。使えなくなれば、あっさりと投擲し手放す。剣士のそれではない。


 タリッジの感じた歪さはまだある。

 ある程度にまでその技量を昇華させた剣士なら誰もが持っている直感、第六感と言っても良いほどに重要となる素質。それがエインズにはなかった。


「まさか、……剣士じゃ、ないのか?」


 傍から見ていたただの観客には分からない、二人の試合の歪さ。

 考えれば考えるほど、その深みにはまってしまう。

 さらに思考を深めようとしたところで、屋敷に到着した。


「……タリッジ、お前は部屋に戻っていろ。僕は父上に今日の報告をしなければならない」


「……分かった」


 ぶっきらぼうに答えるタリッジに、ダリアスは眉間にしわを寄せながら不満を露わにする。


「いいか。今日の試合は間違いなく父上の耳に届いているはずだ! それがどういうことか分かるか! 僕が、詰められるのだ! お前のせいで、だ。腕に覚えがある剣士だというから雇っているのに、どうするんだ! いいか? 僕の父上への報告が終わるまでに、落ちた評価の挽回方法でも考えていろ!」


 タリッジよりも小さな身体のダリアスがそれに物怖じせず、タリッジの顔に指を突き付けて声を荒らげる。

 言い放った後、ダリアスは彼の父親であるゾイン=ソビの書斎へ向かっていった。


 一人になったタリッジはこの後の取るべき行動を考える。

 なんとかしてダリアスに貢献しなければ、ソビ家から追い出されてしまう。

 それではまずい。まだタリッジはサンティア王国で目的を果たしていない。


「……たしかあいつらがスラムの方で何か見つけたって言ってたな。なんだ、『セイイブツ』だっけか?」


 タリッジは以前に小耳にはさんだ話を思い出していた。

 魔法文化であるサンティア王国では『セイイブツ』が高値で取引されるという話だ。


「……それを手に入れれば、今回のことはなんとかなるか」


 タリッジは、ここに来てから出来た決して良いとは言えない仲間と落ち合うことをきめてダリアスが戻ってくるのを待った。


「……きっとあの坊ちゃん、顔真っ赤にして戻ってくるだろうな」


 別に怖くはないが。

 それよりも今はエインズとの打合いを振り返りたい。タリッジは静かに目を閉じる。


「(次は俺の本来の相棒で、あいつと打ち合いたい! あいつと打ち合えば、俺の求める何かに近づけるはずだ……)」


 彼の直感がそう告げていた。


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