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 ハーラルは合図を出して、上げた腕を振り下ろす。

 合図の直後、タリッジのその大きな一歩が踏み込まれる。

 その大きな体躯の割には素早い動き。もちろんその移動速度はソフィアやエインズのそれには及ばないが、屈強な身体に重い両手剣を持っていると考えればむしろ速い方だ。


 まずは小手調べといったところだろうか、タリッジは剣の間合いまでエインズに近寄るとその隆々とした腕で持ち上げた剣を上段から振り下ろす。

 だらりと剣を下げたままのエインズは、タリッジのその振りを後ろに下がることで躱す。躱した後に反撃に出ることもせず、その場で動かない。

 対するタリッジも追撃することもなく、ゆっくりと剣を構えなおす。


「(なるほど、まったくの素人ではないな。大袈裟に振るってみたが、腰が引けた様子もない)」


 騎士崩れとはいえ、自らの技量を剣王クラスと称しているタリッジ。剣術に関する分析となると冷静な評価をする。


「次、いくぜ!」


 再度エインズに接近するタリッジ。

 風を断ちながら、その長い刀身をエインズに振るう。横から振るわれた剣もエインズは飛んで避ける。

 続く攻撃も躱すばかりでエインズは剣を交えることをしなかった。

 それからも何度と重い一撃を振るうタリッジに防戦一方のエインズだったが、しばらくして観念したように大きくため息をついて剣を構えた。


「どうした、やっと剣を振ることにしたのか? そのまま逃げ続けるだけでも良かったんだぜ?」


「いや、やめたよ。このまま逃げていても、どうもあなたは疲れる気配もない。勝手にへばってくれればそれで終わりだと思ったんだけど、そうもならなそうだ」


 その青い左目でタリッジを捉え、「かえって面倒になるくらいなら勝敗をつけた方が早そうだ」と剣を持つ手に力を加える。


「(あの構え、どこの流派だ? 帝国では見たこともないし、ここに来てからもあんな構えをした奴は知らねえ)」


 タリッジは雰囲気が変わったエインズを前にむやみに突っ込むことはせず、その初動に注視することにした。


「来ないのなら、今度は僕から行くけどさ。僕には騎士や剣士としての心得もなければその気高さも持ち合わせてないからね」


 そうしてエインズは構えていた剣の刀身を傾けていく。


「……?」


 何をしようとしているのか分からないタリッジだが、次の瞬間に目の前に強烈な光を感じた。

 時として試験も終了して日が傾き始めた頃ではあるが、その強烈な西日をその傾きを調整した刀身で反射させてタリッジの眼を潰す。


「……くそが!」


 タリッジも決して品のある剣士ではない。しかし、初めて相対する者に対して目つぶしをするような卑怯な手を使ったことは彼でもない。

 強烈な光に一瞬目を閉じて怯んだタリッジへ飛び込むエインズ。


 ライカはそんなエインズの動きを知っていたが、その他キリシヤやセイデルは義足を嵌めた彼の動きに驚いていた。

 ダリアスはエインズの動きを目で追えていないため反応が薄い。

 低い姿勢からの音を抑えた足運び。真っすぐタリッジに向かうのではなく、少し横にずれて近接する。


 一瞬でも目が潰された相手に対し、目を上下左右に動かせるような動きはさらに姿を捉えづらくさせる。

 低い姿勢から、下方に構えた剣を斜め上に振り上げる。畳まれた脚や上体はそのままバネを生み、基本的に力が加わりづらい下方からの振り上げに鋭さを持たせる。


「……っ!」


 気配を感じ取るために、直感は剣士にとって重要な能力である。

 麻痺する視界でもタリッジは、うっすらと見えるエインズとその気配、剣を振るう動作の際に生まれる音を聞き取り、素早く剣を前に出すことで一撃を防ぐ。しかしそれはただ攻撃を剣で防いだだけであるため、その衝撃はタリッジの身体に響く。


「ひょろい身体のくせに大した威力じゃねえか!」


 防がれたエインズは、若干身体の重心が浮いたタリッジの脚目掛けて義足を振るう。

 鋭い足払いだが、体重のあるタリッジの身体はびくともせず、エインズは小さく舌打ちをして距離を離した。


「汚い手を使うが足運びや身体の動かし方、お前の剣の腕はなるほど、認めよう。上級剣士程はあることに違いない」


 だが、とタリッジは続ける。


「努力の域を超えるところに俺はいるんだ。今、お前に見せてやる!」


 タリッジは静かに息を長く吐き、両手剣を片手で持つ。

 エインズはそれに一瞬反応したが、それだけ。

 傍観するライカたちは目を見開く。


 タリッジ程の筋力があれば、両手剣を片手で構えることは可能だろう。しかし、重い剣を片手で振るうとなると、振りは鈍くなり、素早い動きのエインズを相手に使い物にならない。故に彼らにはタリッジの行動が理解できなかった。


 タリッジは腐っても剣士。この立ち合いにおいて意味のないことはしない。ということは、両手剣を片手で持つデメリットを消すほどの何かがあるとエインズは察する。


(……なるほど、魔力操作か)


「……いくぞ。ついてこいよ」


 タリッジが前に足を踏み込む。

 瞬間、タリッジの足元で小さな爆発とともに砂埃が舞う。

 先ほどとは段違いの速度でエインズの懐に飛び込んでくると、片手剣のように軽々と両手剣を振りかぶり、鋭く振るう。


 刃が潰された刀身は鈍く風を断ち切り、轟音を鳴らしながらエインズの胴目掛けて振るわれる。

 瞬時に回避は出来ないと判断するエインズ。そのまま剣で受けてしまってもその威力に手首は砕け、ひしゃげた腕とともに肋骨がやられてしまう。


 魔力操作をして、全身を補助的に強化した。そこは流石のエインズである。迫りくる剣を前に一瞬よりも短い時間でそれを成す。


「骨の何本かもらっていくぜ!!」


 激しい音とともに、タリッジの剣とエインズの剣がぶつかり合う。

 魔力操作によりエインズの身体はその負荷に壊れてしまうことはなかったが、態勢が完璧ではなかった。その重い振りに、剣で防ぐことはできたが後方へ吹っ飛ばされてしまった。

 エインズが後方の壁にぶつかる音とともに、大きな砂煙が舞う。


「エインズさん!」


 見ていたキリシヤがエインズを心配して声を上げる。


「キリシヤ様安心して下さい。あのエインズ殿です。きっと無事でしょう」


 砂煙で見えない中、セイデルがキリシヤに声をかける。


「ええ、エインズなら大丈夫よ。どうせ飄々としているわよ」


 ライカは信頼しているようで、誰一人心配することもなく砂煙が晴れるのを待つ。


「今のでやったか、タリッジ!」


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