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08

「どうですか? けっこう難しいでしょう? 私も昔に苦労させられましたよ」


 セイデルは当時の苦しみを懐かしそうに思い出す。

 対するエインズの持つ印象は違った。


(なるほどね。この国の魔法士が頭でっかちと言われるのも分かるね)


 エインズはこの重箱の隅をつつくような、知識をどれだけ詰め込めているかの確認を試験として取り入れている点で問題を感じた。

 セイデルはそんなはっきりとしないエインズの表情を見た。


「難しい……といった表情ではなさそうですね、エインズ殿」


「そうですね。目的と手段が入れ替わってしまっている試験になってて」


 尚も問題に目を通しながら返答するエインズ。


「分かりますよ。……いえ、違いますね。私も魔法に携わるようになって初めてこの魔術学院の入学試験の内容が適していないと理解出来ました」


 しかし、とセイデルは続ける。


「差別化を図り、入学者の数を絞るとなれば自ずとこのような形式になることも理解できるのです。だからこそ、入学し学んでいく中で私やエインズ殿同様にその点に疑問を持てる者が優れた魔法士、そしてリーザロッテ様が認める程の魔術師となれるのでしょう」


 エインズはこの言葉だけでセイデルは少なくとも優れた魔法士以上の者であることを理解した。

 筆記試験の時間は3時間ほどを要する。問題量もさることながら、計算や記述で答える問題もあるため、時間配分と集中力が試される。


 受験者は誰もが必死に机の上の問題用紙に立ち向かっている。

 この間、エインズとセイデルは魔法談義に花が咲いた。


 一番エインズに興味を持たせたのは、存在する魔法から数多くの魔道具が生み出された点だった。先ほどの拡声器もそうだが、魔法が扱えない者でも簡単にその恩恵にあずかることができる魔道具の存在はすぐに受け入れられた。


(……でもおかしいな。森で籠っていた数年でこんなに世の中に変化があるものか? 街の変わり様もそうだし)


 エインズは周りの環境の変化に疑問を感じたため、後で少し調べてみることにした。


「止め!」


 拡声器を持った試験官の大きな声で筆記試験の終了が言い渡される。

 一斉にペンを机の上に降ろす。

 それから試験監督数人で解答用紙を集めていき、全てを回収した後解散の許可が出された。

 キリシヤと身体を伸ばしながら歩くライカがエインズとセイデルのもとまでやってくる。


「ライカ、お疲れ。キリシヤ様もお疲れ様でした」


 エインズが手を挙げながら二人を労う。


「エインズさん、そのような堅苦しい言葉遣いはやめてください。ライカさんと同じようにフランクに接していただけるとうれしいのですが」


 少し困り顔で話すキリシヤ。


「そう言われましても、王女様ですし……。ライカ、いいの?」


「うん? いいんじゃない? キリシヤ本人がそう言っているんだから」


 貴族社会に疎いエインズがライカに判断を仰いでみたが、彼女の方はあっけらかんとしていた。


「……では、キリシヤさん、で」


「呼び捨てで良いのですけど。歳の近い友人も少ないので仲良くしていただきたくて……」


 語尾を濁しながらもじもじとするキリシヤに可憐さを覚えるエインズ。


「ま、まあ。慣れるまではキリシヤ『さん』で」


 そんな筆記試験終了後のたわいもない雑談をしていた四人に近寄ってきた二人組のうち、一人が声をかけてきた。


「これはライカ=ブランディじゃないか。奇遇だね、まさか君も魔術学院を受けていたとは」


 憎たらしい顔の青年と、その半歩後ろには先ほどまで従者待機席にいたタリッジが並んでいた。


「……ダリアス。当たり前でしょ、あなたと同じ12の歳よ。あなたが受験するのと同様にわたしも受験するわよ」


 面倒くさそうに返すライカ。


「いやいや、歳は知っているとも。だが、てっきり君はパン工房に修行に出ているのかと思ったのさ。ほら、君の領地は小麦が有名でパンも美味しいと聞く」


 ダリアスはニヒルな笑みを浮かべながら話す。


「あら嬉しいわ。ソビ家の耳にも届くなんて。ディナーにも出されるのかしら? ソビ家の嫡子にお褒め頂けるなんて光栄ね」


 ライカはうんざりした表情でダリアスの皮肉に返答する。

 しかしダリアスの注目はすぐに別に移る。


「これはこれはキリシヤ王女殿下。ゾイン=ソビ侯爵が長子、ダリアスにございます」


「ダリアスさん、こんにちは」


「先日の王城でのパーティー以来のご挨拶でしょうか。殿下のことですから、先の筆記試験も問題なかったのでしょう。この後の実技でも互いに最善を尽くしましょう」


 キリシヤに軽くお辞儀をして挨拶を交わしたダリアスは再びライカの方へ向き直る。


「君は次の実技で挽回すればいいのだから、気を落とすことはないぞ?」


「ええ、そうね」


「それにしても君の従者はどこにいるんだい? 見たところ、それらしき人物は見当たらないが」


 ダリアスの視界にはエインズも映っているのだが、その身体的特徴と風貌から、自分と同じ受験者の一人で奇妙な人物という判断をしていた。


「そこの彼がわたしの従者よ。名前はエインズ」


 ライカの紹介にダリアスは素で驚く。


「彼が!? 気でも狂ったのかライカ=ブランディ。この身体の欠損は、間違いなく様々な状況で足手まといになるだろう」


 ダリアスの目は明らかにエインズを蔑んでいた。


「失礼よ。彼を足手まといに感じたこともなければ、逆にそこらの下手な騎士崩れよりも動けると評価しているわよ」


 ライカの視線は、傍若無人な言動で有名なタリッジに向いていた。

 それを挑発と受け取ったタリッジ。


「はっ! そんな欠損だらけの奴に俺がやられるって言いたいのか嬢ちゃん!」


 従者が侯爵家に仕えているといっても貴族になったわけではない。つまりこの場において、従者の立場であるタリッジがブランディ侯爵の長女に対して対等に口を利くことは本来許されない。

 だがそこは悪名高きタリッジ。それを知ったことかと強い口調でライカへ返す。


「それに見たところ、こいつお前や坊ちゃんと同い年に見えるが?」


 あまり関わりたくないと考えているエインズは顔を引きつらせたまま黙っている。


「……そうね。本人曰く、わたしと同い年よね。けどだからなに? 彼があなたよりも若いからといって、あなたよりも劣っているとは限らないわよ?」


「面白い! 剣聖の域に近しい剣王クラスの俺を侮るような口を利くとはな。こいつと勝負させろ!」


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