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07

「リーザロッテ様がですか!? それはそれは。近くお手合わせをさせて頂きたいものです」


「機会がありましたら。……リーザロッテ様というのは、広間の時の真っ赤なドレスの女性ですか?」


 玉座の広間にいた人物でそれらしき人物を挙げるエインズ。


「そうですね。詳しくは私も父から聞いていませんが、父の相談役といったところでしょうか」


「にしては、陛下がリーザロッテ様に頭が上がらないような感じも致しますが」


「リーザロッテ様はああいうお方なのです。高圧的に思われがちですが、その実、お優しいお方なのですよ」


 だがセイデルは「しかしながら私では目を合わせることもままなりません」と首を横に振る。


「エインズさんも学院の試験でこちらに?」


「いいえ残念ながら。僕は試験の申込が出来ませんでしたから」


 エインズの返答にキリシヤは「ではなぜ?」と疑問に感じた。


「エインズはわたしの従者としてここにやってきたの。どうしても学院が見たいって言うからお父様がなんとか策を講じてくれたのよ」


 それからライカとキリシヤが試験の自信はどうか、緊張しているかなど雑談をしていると魔術学院の教師だろうか、男性二人が四人のいる会場にやってきた。

 男性教諭は手に持った魔道具を口に当て、集まる受験者に向けて口を開く。


「定刻になったのでこれより、キルク魔術学院の試験を開始します。まずは皆さん、前方にございます座席に着席してください」


 試験会場がいくつかに分けられているとしてもこのブロックに集まる受験者の数は優に百人を超えていた。

 その集まる各々が口を開きざわめく会場に男性教諭の声がそのまま届く訳はない。

 しかしその問題を手に持った魔道具が解決していた。効果としては声の拡張。簡単な魔道具の一つ、拡声器。

 男性教諭の言葉に少年少女の皆が前方の座席に目をやる。


「まずは筆記試験になります。机の端に受験番号が振ってありますので着席して下さい。一部の受験者には従者がついておられるかと思いますが、その方への待機席も用意してありますのでそちらに移動をお願いします」


 本来であれば学院の館内で筆記試験をするべきであるが、残念なことに莫大な受験者数に対して席が足りないのだ。それも、何人に対しても魔術学院の門戸を開いているからである。

 そのため天候によってこれまで何度か筆記試験が延期されたこともあるが、これはまた別の話。

 皆、ぞろぞろと自分の番号の席に向かって歩き出す。


「それじゃエインズ、行ってくるわね」


「うん、がんばってね」


 ライカは小さく頷き返してから座席へ向かっていった。

 その横でキリシヤと従者のセイデルが同じように言葉を交わしていた。そしてライカと一緒に座席へ向かっていく。


「それでは私どもも移動しましょうか、エインズ殿」


 ライカやキリシヤの他にも従者を連れていた受験者がいたようだ。座席の方へ向かわない者が何人もおり、その中にはセイデルのように燕尾服を着た者もいれば、メイド、ローブを纏っている者も居た。

 彼らは待機席と言われていた場所へと静かに歩き出していた。


 セイデルもそうだが、従者の彼らもこれが初めてではないのだろう、慣れた感じで席に座った。

 従者が集まる中でもエインズは浮いていた。


「従者になるということは、それは高い爵位を持つ貴族と同じ品と振舞いを強いられることを意味します」


 エインズの落ち着かない顔を見たセイデルが静かに語る。


「しかし、中にはそのような品を持ち合わせていない輩もいますが……」


 椅子に静かに座る従者の面々の中に、一人だけ崩した姿勢でぞんざいに座る男がいた。


「もっとクッション性のある椅子はないのかよ! 俺はダリアス=ソビ様の従者だぞ!」

 喚く男。

 その矛先は試験を監督する学院の職員に向かっている。

 彼の言動は有名なようで周りの他の従者は辟易した表情をしたいた。


「あの人は?」


 エインズは男を見ながら小声でセイデルに尋ねる。


「彼の名はタリッジ。ソビ家に仕えている者です。まあ周りを見ての通り、彼の横柄な言動は有名なものです」


 セイデルは同じ従者という立場が心底嫌なようで、「ソビ家はライカ嬢のブランディ家と同じ侯爵の爵位を持っています。まさに虎の威を借る狐なのです」と渋い表情をした。


「なるほど。あまり関わりたくないですね」


 エインズは苦笑いをしながら言うも、


「いえ、それはきっと難しいかもしれませんよ?」


 とセイデルに憐れまれながら返される。

 受験者が全員席に座り、問題用紙が配られると試験官の「始め!」の合図に一斉に問題に取り掛かる。

 筆記試験の問題は、計算・歴史・魔法知識・魔導書読解の分野で構成される。


 とはいえキルク魔術学院は狭き門。計算は難解なものが多く、その他の知識問題も基本的なものから重箱の隅をつつくような問題まで出される。

 一般にも入学募集はかけられてはいるものの、どうしても高度な知識を入れるとなると優秀な家庭教師が必要となる。そうなれば金銭的な問題が発生し、結局は金銭的に余裕のある貴族や商人などが優位になってしまうのだ。


 ぼんやりと静かに待機するエインズが見つめる受験者の中には服装から一般市民と分かる者もある程度の数見える。

 中には本当に優秀な者もいるのだ。


「……魔法知識の問題が気になるな」


「見たいですか?」


 ぽつりと呟いたつもりのエインズだったが、セイデルの耳に届いていたようだ。


「見られるんですか?」


「主人にお教えすることは出来ませんが、見れますよ」


 セイデルはそう言って、静かに手を挙げる。

 セイデルを確認した試験監督が静かに彼のもとまで近づく。


「魔法知識の分野の問題を見せてほしいのですが」


「少しお待ちください」


 一旦その場を後にした試験監督は、遅れて問題用紙を手に持って再度エインズとセイデルの前に現れた。

 エインズは問題用紙を受け取り、パラパラと頁をめくる。


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