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04

「エインズ様、胸をお借りします!」


 両手で木剣を握り、正眼に構えるソフィア。

 目を閉じ、一度体内の魔力を意識する。

 魔力を自らの支配下に置き、体内操作できる状態に仕上げる。


 ソフィアのこの準備も、魔力の体内操作に慣れていけば一秒もかからず臨戦態勢を取ることが可能となる。


「……行きます!」


 ソフィアは瞼を開き、その目でエインズを捉える。

 ソフィアにとっては軽く地面を蹴っただけなのだろう。いつもの感覚で相手の懐に最短距離で飛び込む。

 しかしそのスピードは段違いだった。


 まさに一瞬。

 脚運びなどの技術によるものではなく、簡単に言えば全身のバネが強化されているのだ。

 部分ごとのバネの強化具合でいえば、極端に変わった訳ではない。しかし先にエインズが説明したように、身体の動きというのは一つの筋肉を動かすのではなく、全身の筋肉の動きが複合的に組み合わさり成される。


 つまりそれぞれのバネが強化されるということは、そのまま相乗的にパワー、スピード、身体のキレが強化されることに繋がる。

 低い姿勢でエインズの懐まで潜り込んだソフィアは横に一閃する。

 刃のない木剣であっても、その鋭い斬撃は空気を切り裂く。


 ソフィアはこれまで感じ取れなかった領域に足を踏み入れた。

 身体の動きは申し分ない。しかし一点、不快感を覚える。

 木剣が空気を切り裂く際の抵抗力だ。振りが格段に鋭くなったが故に覚えてしまう不快感。

 万能感を覚える中で、木剣の雑さに苛立ちすら覚えそうになる。


 これまで重さや長さだけで剣を選び、調整してきた。しかしこの領域に足を踏み入れた今、これまで以上に剣の繊細な調整が必要になってくるとソフィアは痛感した。

 エインズの持つ木剣とぶつかり合う。

 パァン! と、およそ木剣がぶつかり合ったとは思えない破裂音が起きる。


「どうだいソフィア?」


「これは、すごいですね。……すみません、うまく表現できる言葉が思いつきません」


 ソフィアの木剣を受け止めたエインズは強くはじき返す。

 宙に浮き、後方へ飛ぶソフィア。エインズとの距離が再び開き、両者の動きが止まった。


「感覚は掴めたかな? それじゃ、打ち合ってみようか」


「はい!」


 そこからの二人の動きは、ライカには捉えられなかった。

 破裂音とともに削れていく木剣の破片が飛び散る。芝生は抉られていき、二人を中心にして庭に風が生まれる。

 それはライカの頬を撫で、火照った身体を冷ましていく。


「……リステ、あなたには二人が見える?」


「いいえ。しかし、お二方がご当主様からぐちぐちと説教を受けている未来は見えます」


「あはは、そうね。でもこれ、どうしようかしら」


 屋敷の窓から多くのメイドが破裂音の響き渡る庭の様子を眺めている中、ライカとリステは芝の整備方法を考えていた。

 数分続いた二人の打ち合いも、木剣が限界を迎え半ばから真っ二つに割れたことで終わりを迎えた。


 荒れ果てた激戦地の中で、エインズとソフィアの二人は剣の握り部分だけを手に持ち乱れた息を整えていた。


「はぁはぁ。……エインズ様、ありがとうございました」


「はぁ。いやいや。僕の方こそ、いい運動になったよ」


 エインズは肩で息をしながら「これでここの皆にも僕の有用性が証明出来たんじゃないかな!」と、したり顔になる。

 そこにライカが寄り、


「二人とも、清々しいところ申し訳ないんだけどさ」


 ニコニコと満面の笑みを貼り付けて声をかけるライカ。


「すごいわね。管理の行き届いていた庭園を美味しい野菜が育てられそうな農園に見違えるほど耕してくれちゃって」


 ライカの声色は明るい。

 一方のエインズとソフィアは周囲を見回して顔色が青ざめる。特に、カンザスの長時間に及ぶ説教を受けているエインズの焦り様はソフィアの比ではない。


「お父様のありがたいお言葉に乞うご期待ね!」


 可愛らしくウインクを飛ばすライカは、二人には死神が笑ったように思えた。

 その後、戻ってきたカンザスは庭の惨状を目にし、案の定二人はカンザスからネチネチとした説教を受けるのであった。


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