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03

「魔力操作? 剣を振りながら魔法でも使うの?」


 ライカが尋ねる。


「いや違うよ。ライカにはまだ早いかもだけど、知識として聞いておいてよ。きっと為になるよ」


 剣を左手に持ち、エインズはソフィアからいくらか距離を取って相対する。


「どこから話そうかな。……ライカ、魔法ってどうやって使うんだっけ?」


 ライカはそばに控えていたリステに椅子を持ってこさせ、そこに座る。


「体内の魔力を操り、体外に出す。詠唱やイメージが魔力に道筋を与えることによって様々な形や性質をもって発現する、……んだっけ?」


「そうだね。よく覚えている。魔法適性とは厳密に言えば、操る魔力総量の大小が要因の一つ。そして、体外に魔力を発射する魔力操作、詠唱などを用いて体外に打ち出す魔力に魔法たらしめる道筋を描けるか、この三点だ」


「はい。私はその魔力操作と詠唱の精度がネックとなって魔法が使えません」


 ソフィアは剣を握っていない方の手で感覚を確かめながら答える。


「魔力総量は先天的な要素が大きい。もちろん、身体の成長に合わせて後天的に増加することもあるが、劇的に変わることはない。詠唱などによるイメージの増幅は努力すれば何とかなる。だけど、魔力操作はセンスによるところが大きい」


 エインズはこう言っている。

 魔法とは先天的な能力とセンス、そして努力の三つが合わさって初めて使える代物であると。


「だけどソフィア、魔力操作はさらに細分化されるんだよ。体内での操作なのか、体外への操作なのかの二つに」


「体内と体外……」


「そして体内操作に関しては簡単だ。多少コツは必要だけど、意識的に体内の魔力を感じることから始めればなんてことはない」


 エインズは木剣を地面に突き刺し、中指に嵌めた指輪によってアイテムボックスを展開させる。そこからポーションを取り出し、ソフィアに見せる。


「このポーションをソフィアも使ったんだよね? 傷が癒える時に、何か感じなかった?」


「はい。身体の内から込み上げてくる何かを感じました」


「それが魔力だよ。これは、魔力を活性化・増幅させるポーション。付随的な効果として傷が癒える代物だ。その感覚を思い出してごらん?」


 ソフィアは目を閉じ、意識を体内に向ける。

 今はポーションによる魔力が活性化していないため、慣れていないソフィアでは集中しなければ体内をめぐる魔力を感じ取ることが出来ない。

 一分もかからずして、


「なんとなくではありますが、それらしきものは感じました」


「一度感じ取れれば体内操作は簡単だよ。そして、ソフィアの場合はもうここまで行きつけばほとんど魔力操作による身体強化は成ったのも同然だよ」


 手に持ったポーションを再びアイテムボックスにしまうエインズ。


「待ってよエインズ。それだったらわたしも出来るわよ? 魔法も使えるし、体内操作だってマスターしているわ」


 腰掛けているライカがエインズに「それなのにどうしてわたしの場合はまだ早いのよ?」と問いかけた。


「それは身体の動かし方を完全に把握していないからだよ」


「動かし方?」


 思わず首を傾げるライカ。


「たとえばライカ。目を閉じて両腕を横に広げて、肩の高さで地面と平行を保ってみて?」


 エインズが何を言わんとしているのか理解できないライカだが、言われたように目を閉じて腕を広げた。


「リステさん。ライカの腕はどうですか?」


 エインズはライカの横で見守っていたリステに尋ねる。


「そうですね、右腕が肩の高さよりも下がっています。逆に左腕は肩よりも若干高いですね」


「え? 本当に?」


 ライカは目を開けて、自分の腕を見る。


「……よく分からないわね」


 腕の高さなど第三者目線でなければ正確に分からないものである。


「これが答えの一つ」


 ライカとソフィア、黙してエインズを見つめる二人に続けて語る。


「イメージと実際の動きではどうしてもそこに誤差が生まれてしまう。今の簡単な動作でも誤差は生じる。より複雑な動きになれば尚更だね」


「はい。私でも剣を振るう際にわずかですがイメージとの誤差は生じているはずです」


 ソフィアもエインズの言葉に同意する。


「熟練した剣士はその絶え間ない修練の先に、イメージと実際の動きの間に生じる乖離を極限にまで無くす。それでも拭い去れない誤差は、」


「剣の振りであれば、全て把握しております」


 エインズの言葉にソフィアは続けて結ぶ。

 だからこそ、怒涛の勢いで展開が変化していく剣戟の中で剣を自分の身体の一部のように自由自在に振るえているのだ。


「そしてもう一つ」


 エインズは重ねてライカに尋ねる。


「剣を上方に振り上げてから振り下げる時、使う筋肉はどこだい?」


「なんでそんなこと? そんなの簡単よ。腕の筋肉、腕力でしょ?」


 ライカの答えを予想していたように、エインズは静かに首を横に振る。


「それは正解には程遠い。ソフィア?」


「はい。全身の筋肉を使います」


「そう、これが正解。簡単に例を出してみようか。剣が身体よりも前に出ている時は当然重心が前へ傾く。それを支えるには背中の筋肉、背筋を使用する」


 エインズは続ける。


「一つの小さな動きでも全身の筋肉を動かしているんだよ。だからこそ魔力をもって身体強化をする時には身体の動きを把握していなければ、一箇所を強化したところで、他方に負荷がかかり、崩壊してしまう」


 だからこそ、合理性を追求した一振りをモノにし、なおかつ筋肉の動きを把握している熟練した剣士は身体強化が成せるのだ。


「そういうことですか」


「よく分からないけど、いま分かっていないってことが私には身体強化がまだ早いってことなんでしょうね」


 完全に消化しきったわけではないが、ライカもとりあえず納得はした。


「さあソフィア、身体強化を駆使してかかってきなよ。僕も使うから心配無用だよ」


 突き刺していた木剣を抜いて構えるエインズ。


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