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01

 いつも拙作をお読みいただきましてありがとうございます。すずすけでございます。


 こちらの内容は、シリーズ『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~聖遺物は語らない~』の内容となっています。私のシリーズ管理方法の見直しにあたり、統合することに致しましたので、こちらへの投稿が完了次第、『~聖遺物は語らない~』を削除致します。


ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い致します。

 真っ赤なドレスを身に纏う妖艶な女性——、リーザロッテの持つワインはひとりでに蒸発し、グラスはまるで生気を失った草木のように、朽ち果てるようにして崩れ去った。


「――、魔法・魔術の黎明期を迎え、激動の時代に突入するのじゃ。覚悟することだ、やつは良くも悪くも魔神。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものじゃが、目覚めた神ほど厄介なものはなかろうて」


 先ほどエインズらと内謁した玉座の広間からすぐ隣の部屋で、瞳孔を広げて彼女を見る視線は三つ。

 サンティア王国における最高決定権者であるヴァーツラフ国王陛下。その顔の深い皺は、ヴァーツラフが治めてきた歴史を刻んでいた。


 横に座るはヴァーツラフの息子にして、サンティア王国の第一王子であるハーラル。成人前14歳の彼では感情を抑えることがまだ難しいようで、利発的で見目整ったその顔立ちは驚きの色に染まっていた。ハーラルは身体を仰け反り、手は微かに震えていた。


 恰幅のよい男性は、驚きに沸き上がった感情を深く息を吐くことで落ち着かせていた。それでも吐かれる息は微かに乱れており、国の中枢、ヴァーツラフの右腕としてサンティア王国の宰相を務めるエリオットでも状況の整理に苦戦していた。


「妾は政治なんかに興味はない。俗事はそなたらが思うようにやればよい。だが、覚悟するがよい。やつの魔法魔術への関心は病的なものだ。安易な気持ちでやつを政治に取り込もうものならこの国、根幹から破壊されることもあるぞ?」


 病的、という言葉に当てはまるのかどうか分からないが、リーザロッテの言わんとすることはヴァーツラフにも理解できた。


「内謁の場とは言え、国への忠誠心は魔法魔術のそれに劣る、と。国王の余を前にして語るは確かに病的とも言えような」


「リーザロッテ様が妹キリシヤをこの場から外した理由が分かりました。これを聞いてしまいますと、今後の魔術学院での生活に大きく影響するでしょう」


「合わせてライカ嬢との関係性、そしてブランディ侯爵との関係にも影響しますか。なるほどカンザス=ブランディの政治に関する頭の回転は脅威ですな」


 エリオットは脂肪の乗った顎を手でさすりながら思案する。


「ブランディ領とアインズ領の協力関係については、恐らくエインズの一存で決まるだろうよ。あのソフィアという銀雪騎士団の女騎士の仕草を見るに、すでに銀雪騎士団の中枢ではエインズについて把握されているであろう」


「アインズ領の成り立ちを考えれば、エインズ殿がイエスと言えばブランディ領との協力体制は成される、と」


 エリオットの言葉にリーザロッテは「加えてやつも俗事に興味なかろう。カンザスの童の言葉に何も考えずイエスと言うであろうな」と当然のように結論づける。


「私もあと一年は魔術学院に通います。キリシヤのことや、エインズ殿のこと、どちらにも出来うる限り注視してみましょう」


 ハーラルの言葉にヴァーツラフは「うむ」と小さく頷き、魔術学院の内部でのことは息子のハーラルに任せることにした。

 そこで部屋の扉がノックされた。


「陛下、そろそろ予算についての会談が始まります」


 衛士の呼び声に場は一度解散となる。

 ヴァーツラフが部屋を後にする直前、リーザロッテが一言添えた。


「……エインズをそなたらの俗事に関わらせようが一向に妾はかまわん。だが、妾がエインズと相対している時、一切手を出すな。その時は妾がそなたらを国まとめて風化させよう」


「……お前の小言はいちいち余の胃を刺激するな。心得ておこう」


 エリオットがヴァーツラフの後ろをついて部屋を出ると、遅れてハーラルがリーザロッテに会釈して部屋を後にした。


「ふぅ。久しぶりに真面目に語ってしまったな。これはまたミレイネをいたぶって気分転換せねばならんな」


 すでにメイドの控室に戻り自由時間を過ごしていたミレイネは、ふと寒気を覚えていた。





 一方のエインズ達はというと、特に何事もなく馬車で帰路についていた。

 とはいえ、別邸につくまでカンザスが広間での出来事に肝が冷えた、生きた心地がしなかったなどと延々エインズに愚痴っていた。


 ライカは気疲れですぐに眠ってしまっており、ソフィアは目を閉じ外の気配に注意を払っているようで、エインズに助け舟を出すことはなかった。

 邸宅の前に馬車が着くと、すでにリステをはじめとしたメイドたちが待機していた。


「ご主人様、お昼の準備が整ってございます……が、皆様お疲れのようですので、何か甘いものと入れ替えましょう」


 瞼をこするライカに、下車後も口調は穏やかながらぐちぐちと責めるカンザス、げっそりとした顔でその横を歩くエインズ、普段通り凛としているソフィアの四人を見てリステは昼食のメニューを変更した。

 昼食を取りながら、カンザスはエインズに尋ねた。


「エインズ殿、魔術学院のこともございますし、王都にはしばらくいらっしゃるのでしょう?」


 エインズが魔術学院のこともありしばらくはキルクにいる旨を伝えると、カンザスはこの邸宅での滞在を提案してきた。

 エインズにとっては願ったり叶ったりで、そのありがたい提案を即座に受け入れた。


 それから数日。

 街を散策したり露店の食べ物に舌鼓を打ったりと、のんびりした生活を送っていたエインズ。


「このままじゃまずい……。完全にヒモじゃないか」


 朝少し遅い時間にブランチを一人取っていたエインズ。後ろにはエインズの身の回りのことを本人が断らない限り全て世話しようとする名前も知らぬメイドが控えている。

 ここブランディ別邸に来てからというもの、エインズはおんぶにだっこ、黙っていればエインズが死んだときの墓まで準備してくれそうなほどの施しを受けていた。


 さすがにこの恩は返さなければならないな、という至極一般的な心くらいは変人の彼でも持っていた。


「ライカはどこにいるの?」


 エインズが後ろのメイドに尋ねる。


「ライカ様はお庭にてソフィア様と剣の打ち合いをしておられます」


「ソフィアの腕ならば、上達も早いかもしれないな」


「近く、魔術学院の入学試験もございますので、お嬢様も良い刺激だとおっしゃっておられました」


 魔術学院でも剣術が試験にあるのか。話を聞く限り、王都キルクの魔法士はどうも頭でっかちの自尊心の塊のような人物ばかりだと聞く。

 剣術が試験内容に含まれているということは、少なくとも魔術学院の教育方針は腐っていないのであろう、エインズはそう思った。


「……少し様子を見てみようかな」


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