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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第1部2章 魔術師の顕現

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「そのお連れの方は魔術を使うそうでして……」


「ああ、そういうこと。まったく人使いが荒くなったものね、ヴァーツラフ坊やも」


 鼻で笑いながらリーザロッテはパンくずを落とす。


「リーザロッテ様、国王陛下でございますので、坊やと呼ばれるのは控えて頂けると……」


「妾からすれば坊やもいいところ。何も間違ってはおらぬ」


 それから重い手つきではあるが、朝食を食べ終えるとミレイネに皿を下げさせる。

 リーザロッテはネグリジェを脱いで裸になると、無詠唱で「ウォッシュ」の魔法を発動させ、染み付いた肉の匂いを拭い去る。


 クローゼットから真っ赤なドレスを取り出したミレイネはリーザロッテに着付けする。

 大きな化粧台の前に座るリーザロッテの髪を後ろからミレイネがまとめ上げる。

 香水を軽くふりかけられた後、ヒールを履く。


「リーザロッテ様、すでに内謁は始まっています。お急ぎ頂きたく」


「構わぬ、好きなだけ待たせればよい。ヴァーツラフも妾の貴重な朝の睡眠時間を削ってきたのだ。時間厳守までほざくとは業腹すぎるぞ?」


 カツカツと音を鳴らせて歩くリーザロッテ。彼女の動きに合わせるように部屋の扉を開けるミレイネ。


「さて、広間はどこだったかな? 前に行ったのも随分と前だったから忘れてしまったわ」


 リーザロッテは扇子を広げて口元を隠しながら「まあそんな些事、どうでもよいか」と呟く。


「案内いたします、リーザロッテ様」


 ミレイネは内心今すぐにこの高飛車な女の鳩尾に一発喰らわせて肩に担ぎ、玉座の広間に駆け込みたかった。

 しかしリーザロッテはそんなミレイネを知ったことかと、不敵な笑みを浮かべながらゆったりと歩を進める。


「ああ、しまった」


 突然リーザロッテはわざとらしく声を上げ、閉じた扇子でパシッと手のひらを叩く。


「……いかがなさいましたか?」


「ミレイネ、おぬし忘れておる」


「なにか?」


 嫌な予感をしながら答えるミレイネ。


「先ほどワインが出されておらなんだ。いかんぞ、妾はワインを飲まねばならぬ。今すぐ持ってまいれ、妾はここで待っておる」


 ミレイネは、このクソ女が! と掴みかかりそうになる拳をぐっと抑え込み、


「……畏まりました」


 と声を若干震わせながら足早にこの場を去った。


「ふふふ。やはり精神が未熟な童をいたぶるのは堪らんなぁ」


 長い廊下には心底楽しそうに笑うリーザロッテの笑い声が響く。

 程なくしてグラスとボトルを抱えたミレイネが現れるが、


「ボトル一本もここで飲めるわけがないだろう、ミレイネ」


 と、「妾はグラス一杯で十分じゃ」とミレイネからグラスを取り、注ぐように目配せを送る。

 第三者がその様子を見ていたとするならば、ミレイネのボトルを持つ手に力が加わり、ボトルにひび割れが出来てしまうのではないかと気の毒に思うだろう。

 注がれた赤ワインを飲み干すと、再びリーザロッテは歩き始める。


「おや? 騒がしいではないか。これはダルテの声ではないか?」


 玉座がある壇上に直接つながる扉の向こうから、ダルテの怒声が聞こえてくる。


「あやつの忠誠心という面においては、妾であっても本当に脱帽するほどのものよな」


 小馬鹿にするように言うリーザロッテ。

 ミレイネは一人、ワインボトルを持ったまま扉を開ける。


「本当にこれは、どういうことなの?」


 そこには顔を真っ赤にして抜剣した近衛騎士長がいた。





「玉座の広間が術式を構成、している?」


 エインズとライカのやりとりに国王のみが眉をぴくりと動かした。


「うん、僕もこんなにも大がかりなものは初めて見たから好奇心が湧いて仕方がないよ」


 玉座に座りたいという発言は悪気があってのものではないと説明するエインズだが、それで納得するダルテではない。


「貴様の好奇心がどうとか、真意がどうとかは問題ではない! 謀反を示唆する内容を発言するに至った貴様の、王国への、陛下への忠誠心が問題なのだ! 『次代の明星』然り、魔術師を騙る者たちは皆ふざけた者ばかりよ!」


 荒々しく語るダルテの凄みは増していく。


「忠誠? そこに並ぶ人らが偉いというのは、その雰囲気でよく分かるよ。ただここは僕も引けない」


 そこで立ち上がるエインズ。

 膝をついていたことで見えなかった、その風貌が露わになる。

 空の右腕に左脚の義足。右の白濁した瞳は何も映していない。

 身体にこれだけのハンデを背負っている者に負けるはずがない、とダルテは思った。


「僕が動くのは魔術や魔法のためだ。忠誠を誓うのであれば、魔法魔術の在り方に対してであって、断じて国ではない」


 エインズは間に立つソフィアの肩を叩き、横にずれるよう指示する。

 ソフィアの「御意」という小さな声を残し、エインズとダルテが至近距離で直接向かい合う形となった。


「ここでそれを証明してもいいよ。ほら、剣の間合いだろう? どうした?」


 その言葉をもって、ダルテが剣を振ろうとした時だった。


「やめておけ、ダルテ」


 女性の声が広間に響く。

 ダルテの腕も女性の言葉で動きを止める。


「貴様の敵う相手ではないよ、ダルテ。控えよ」


「……リーザロッテ様。あなた様と言えど、近衛騎士長としてここは――」


「くどい。控えろダルテ」


 有無を言わせぬその雰囲気にダルテも黙って、剣を鞘に戻す。


「遅いではないか、リーザロッテ」


「ヴァーツラフ。妾を使い走りにするとは偉くなったではないか」


 声をかけてきたヴァーツラフ国王に愚痴をこぼし、リーザロッテはエインズを見る。


「……ふんっ、気に食わん顔を久しぶりに見てしまった。ヴァーツラフ、この貸しは大きいぞ」


 国王を横目にそう語ると、リーザロッテの纏う魔力が爆発的に高まる。

 視線を向けられるエインズ。


「エインズ……」


 ライカの心配するような声。

 周りの人間もこの状況を、固唾を呑んで見守るしかない。

 しかしエインズはこれまで見せなかった獰猛な笑みを浮かばせる。


「君が相手になってくれるのかい? 期待できそうだ!」



「限定解除『奇跡の右腕』」


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『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~』


書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売!

コミカライズ進行中!

詳しくは作者マイページから『活動報告』をご確認下さい。

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挿絵(By みてみん)

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