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14

 コルベッリも横に吹き飛び、地面を転がる。


「やった!」


 ライカが飛び上がりながら声を上げる。

 ソフィアの足元にはコルベッリが纏っていたフードが切り刻まれたかたちで落ちている。


「……いいえ、しくじりました」


 ソフィアの見つめる先で、ぼろぼろ傷つき汚れたコルベッリが立ち上がる。

 ローブの下は一般的なシャツに長いパンツ。しかしそれも地面を転がり所々穴が空いてしまっている。


「……今のは死んだかと思った。クソザルのせいで貴重な服も破れてしまった。だが、残念だったな。脳筋のあんたにしてはいい考えだったが仕留めそこなった」


 ソフィアが首を切り落とす前に、コルベッリは地面に火球をぶつけた。これによって生じる爆発に自らを巻き込むことによって、飛び避けることが出来たのだ。

 もちろん、爆発によって体にダメージを負うことになってしまったのだが。それでも瞬間的判断によって、コルベッリは最悪の結果だけは免れることができた。

 コルベッリは初級程度の回復魔法を自分にかけ、応急処置をする。


「しかし最低限のことはやれています。これで貴様の膨大な魔力の出どころが分かります」


 なにか仕掛けがあると怪しんでいたローブは最低限奪い取った。

 これだけの魔法を使ってきたのだ。相当な量の魔石を仕込んでいるはずだ。

 ソフィアはローブを漁って魔石を探る。


「ああ、なんだそんなことが知りたかったのか? そのローブにはなんもないよ」


 コルベッリはボサボサな黒髪についた土を手で払いながら答える。


「なに?」


 ソフィアのローブを探っていた手が止まる。

 コルベッリはシャツのボタンを上二つほど開け、紐で首からかけていた紙を数枚見せつけるように取り出す。


「知りたけりゃ教えたのに。正解はこっち」


 ライカもソフィアもコルベッリが右手に持つ紙を見つめる。


「……ぐっ」


 二人は脳みそを直接殴られたような激痛に襲われる。


「やめておけ、読もうとするな。これは原典の原本、その一部だぞ? 発狂して死にたくはないだろ?」


「……な、なるほど。原典の原本にはそれ自体で膨大な魔力を帯びている。貴様はその溢れ出る魔力を使っていたから枯渇しなかったのですか」


「そういうことだクソザル。ローブは単純に姿を見せないためだけ」


 コルベッリの言葉に絶望感を覚えるソフィア。

 先のしくじりは決定打となってしまった。

 魔力の出どころを疑ったローブに仕掛けはなく、コルベッリは原本の一部を身に着けていた。これではこれまでと変わらず魔力の枯渇が起きることなく魔法を連発できてしまう。


 コルベッリの拘束に根本的な解決策が見出せていないソフィア、ライカたちにはすでに手に負えない敵となってしまっていた。


「これで悔いもなく死ねるだろう? 田舎剣士、お前は最後だ。その対魔剣が厄介だからな。そこのお嬢様とその仲間を殺したあとに嬲り殺すとしよう」


 コルベッリは原本をシャツの中にしまい、手から離れてしまっていた杖を拾う。


「略式詠唱『火槍×50』」


 コルベッリの周りを50本の赤々と燃える凶暴な槍が浮かぶ。

 絶望感で動けなくなった獲物を見て、顔を歪ませながら斉射の合図を出そうとした。

 その時だった。


「ごめんごめん、遅くなった。大きい音がけっこうしてたけど何か……って、ソフィアすごい怪我してるけど、ポーションはどうしたの?」


 驚きの色を含んだ場違いに明るい声が戦場に広がる。


「面目ございません、エインズ様。ポーションを頂いたのですが、この様です」


 ソフィアはコルベッリを仕留められなかった悔しさを感じながらも、主が来るまで持ちこたえることが出来たという達成感の狭間に立っていた。


「……誰だあんた?」


 コルベッリは突然現れた異様な男、エインズに驚く。


「うん? 僕はエインズ。って、その物騒なものしまいなよ」


 エインズは左手の人差し指で火槍を指さしながら言い、指先を下に下げる。


「っ!?」


 コルベッリは自分が大量の冷や汗を流していることに気づく。

 エインズの指の動きに合わせて、全ての火槍が打ち消されてしまった。


「(魔法を乗っ取られた? それとも別の魔法を今の一瞬で使って打ち消したのか?)」


 分からない。だが、コルベッリは動揺を隠しながら口を開く。


「あんた、魔法士か?」


「いや、魔術師だよ」


「魔術師? あんたも?」


 コルベッリはエインズを観察する。

 その出で立ちに不気味さを感じたが、自分の魔術があれば対処できると考えた。


「あんたも、ってことは、君がライカの言ってた魔術師? へえ、よかった! 見せてよ君の魔術!」


「な、なんだあんた。気持ち悪いぞ」


 魔術師と聞き、目を輝かせるエインズ。


「き、気持ち悪いって……。僕は単純に君の魔術に興味があって見たいだけなんだよ、見聞のためにもさ」


 これまでコルベッリは魔術師を相手に戦ったことはなかった。それも、魔術師を名乗る程の実力を有したものが『次代の明星』にはいても、敵にはいなかったからだ。

 魔法士を名乗らず、魔術師を名乗った。先ほどの、魔法を打ち消した正体が分からず不気味さを覚えるが、出し惜しみができないことだけはコルベッリは分かった。


「ふん、田舎剣士や脳筋のクソザル共の仲間のようだしな。合わせて嬲り殺してやるか!」


「田舎剣士? ソフィア、田舎者って呼ばれているの?」


「彼は、アインズ領自治都市の人間を田舎者と呼んでいる愚か者です」


「えっ? ……ってことは、そのさらに森深くに籠っていた僕って」


 ソフィアよりも田舎者ってことか、と一人落ち込むエインズ。


「術式詠唱『錬金術師は騙る。砂を金に、白を黒に。しかして羊は得を得る』! これで田舎魔術師も俺の手のひらの上だ!」


 コルベッリの詠唱が完了する。


「うん? 術式詠唱? ねえ、今のって」


 エインズは引っ掛かる。


「『近寄ることは損』。近づくな田舎者。匂いが移るだろ」


 コルベッリに近づこうと動かしていたエインズの足が止まる。


「っ!」


 エインズは自分の動かなくなった左の義足と右脚を見つめる。


「ふん。俺の魔術は鉄壁よ! 魔法士だろうが剣士だろうが、魔術師だろうが動きを止めてしまえばこっちのものだ! 魔法も使わせない!」


 コルベッリはエインズを封殺したと思った。

 一方のエインズは、


「へえ、面白い。……『錬金術師』は現象を変換することを意味してて、『騙る』は相手をだますこと、つまり認識阻害。『砂を金、白を黒』、これは『錬金術師』と『騙る』の言葉を強調する意味合いを持つ、か。となると、『羊』が魔法の対象者を示すか……」


 ぶつぶつと一人呟いて、にこりと笑う。


「君、面白い魔法を使うんだね? これは魔術にも期待が出来そうだ!」


 エインズは期待に胸を膨らませる思いで言う。


「エインズ様、その魔術はかなり厄介です。意表を突かない限り突破できませんでした。どうか油断なさらないよう」


 ソフィアがエインズを見据えて言う。

 ソフィアの後ろにはライカとその騎士たちが同じように不安そうな目でエインズを見る。


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『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~』


書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売!

コミカライズ進行中!

詳しくは作者マイページから『活動報告』をご確認下さい。

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挿絵(By みてみん)

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[気になる点] コルベッリが首にかけ所有しているという原典について、ここでは"写本"と書かれていますが、『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~聖遺物は語らない~』11〜12話では原点の"原本"となっています …
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