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13

「ソフィアさん、こっちはもう大丈夫だよ!」


 全身を砂で汚したソフィアのもとにライカが駆け寄る。


「……もう、そちらは、……いいのですか?」


 剣を支えにソフィアは立ち上がり、ライカに尋ねる。


「遅くなったけど、ソフィアさんが時間を稼いでくれたから後は味方でなんとかなりそう」


「そうですか」


 ライカは味方にエインズ特製のポーションを支給し回った。回復薬を服用しても完治に数日要するケガでも一瞬で治ってしまったため、すぐに盗賊討伐に復帰できたのだ。

 それも、ライカやライカの騎士たちにコルベッリの魔法が向かないように必死に対抗していたソフィアのおかげである。


 一般的に見られる火槍を中心としたコルベッリの攻撃魔法を幾度となくその対魔剣で叩き切ったソフィアだが、コルベッリが動きを拘束する謎の魔術を使用した立ち回りになってからは、防戦一方になってしまった。


 剣を支えにしてはいるものの、疲労や多くのダメージによってソフィアにふらつきが見られた。彼女の白装束も所々破れがあり、旅前の純白は見る影もない。

 一方のコルベッリは多少の移動はしたが、ほとんど立っていた場所から動いていない。悠然と立ち、その場から拘束魔術と攻撃魔術を適宜放っていたのだ。


「おっと、獲物が増えたかな? 少し前から動きが鈍くなって張り合いがなくていかん。ちょうど暇をしていたところだ」


 コルベッリは杖をいじりながら、フード越しにニタニタと笑う。


「あなたの友達は大方片づけたわよ! この人数差が分からない?」


 ライカの後ろには騎士と魔法士が集まってきていた。


「おお! これは怖い! 脳筋のクソザルと魔法使いの集まりか? まさかここでお遊戯会でも開くってか?」


 コルベッリは大げさに怖がる素振りを見せる。


「減らず口も今だけよ。……ソフィアさん、ポーションを」


 ライカが革袋からポーションを取り出し、ソフィアに渡す。


「……まだ、残って、いましたか。さすがは、エインズ様です」


 ソフィアは小さく「いただきます」と呟き、瓶に口をつけ、一気に流し込んだ。

 飲んだ直後、周りの騎士同様に一瞬でこれまでのケガがなくなった。痛みもなくなる。


「これほどとは。これならあの愚か者を叩き切ることができます」


 ソフィアは支えにしていた剣を再度正眼で構え直す。


「なんだそのポーションは? まさか、この数のハイポーションを準備していたのか?」


 ハイポーションはかなり高価なものだ。そのことはコルベッリも知っている。先ほどまで満身創痍だった騎士たちがそのハイポーションで回復したとなると、総額は相当値が張る。


「保有していたハイポーションの量には驚いたが、だが関係ない。俺の魔術はまだ突破できないのだろう? 先ほどの二の舞にしてやろう!」


 コルベッリは杖を構える。


「魔法士隊は後方支援と攻撃魔法を。騎士隊はコルベッリの周囲を取り囲むように散開!」


 ライカは全体へ指示を飛ばす。


「だから無駄だって。『連携は損』」


 コルベッリの言葉に全体の動きが鈍る。

 騎士たちはうまく取り囲むように散開できず、塊のまま動いてしまう。魔法士隊の攻撃魔法はコルベッリに当たることもなく、最悪なことに騎士に当ててしまっていた。


「フレンドリーファイアとは、貴族様お抱えの魔法使いどもは碌に躾もされていないと見える」


 どれだけ回復薬が有能なもので、被害がゼロに戻ったとしても、コルベッリの魔術を突破しないことには意味がないのだ。

 ライカは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 ソフィアも足を止められれば剣で対処、剣の動きを止められれば足さばきで対処するよう、徐々にコルベッリの「拘束」の中で手探りながら突破を試みる。


「田舎剣士! そんな悪あがきのような動きで俺を斬れるとでも? 脳筋が自慢の筋肉を封じられればこれほど脆いとは笑えるな!」


 ある程度まで近づけても、そこから先の一歩の壁が分厚い。距離が短くなればそれだけコルベッリの攻撃魔法が放たれてから到達するまでの時間が短くなるのだ。拘束魔術によって常に動きが後手を踏むことになり、処理が追い付かなくなってしまう。


「それにしても、これだけの数を相手にどうしてここまで立て続けに魔法を使えるのでしょう……。ガウス団長でもこれだけ魔法を撃てば空になっているはず」


 ソフィアはコルベッリの魔法を捌きながら思考を巡らす。


「逆に言えばそこをつければ弱点になるってことね!」


 ライカもソフィアの引っ掛かりに理解を示す。


「(となれば一番怪しいのがあのフードの付いたローブ。あの中に何かタネがあるはず)」


 ソフィアは一度後退し、ライカや後衛の魔法士部隊に合流する。


「ソフィアさん、どうしたの?」


「魔法士部隊の中で風魔法が得意な方はいませんか? 私の背中目掛けて撃ってほしいのです」


「本当にどうしたの? ハイポーションで回復しても、地面に転がりすぎて頭の中がおかしくなっちゃった?」


「ライカ様、あなた意外に失礼な人ですね……。違いますよ、拘束魔術を突破するためです。とはいえ、一度目しか通用しないでしょうが」


 そうしてソフィアとライカ、魔法士で顔を近づけ、簡単な打合せをする。

 次はない。失敗は許されない。


「どうした? 井戸端会議は終わったか? どんな話をしてたんだ?」


 相も変わらず悠然と杖を振るうコルベッリ。


「レディーの話に立ち入ろうとするとは心底無粋な男ですね。魔術もひん曲がっていれば性格もひん曲がっていると見えます」


「あんたさっきまで土の上を転がっていたのに元気になったもんだな。もう一度土遊びがしたいか!」


 ソフィアは体勢を低くし、剣を右手一本で横に持つ。


「行きます!」


「突っ込むタイミングを自ら言うとは馬鹿なやつだ! 『走るは損!』」


 これでソフィアの足は止められた。これでコルベッリに近づくことが出来なくなってしまった。

 コルベッリはフード下からほくそ笑む。どれだけ回復しようが、魔術を突破されない限り彼が窮地に立たされることはないのだ。


「いいえ違います。今の合図は貴様に向けたものではない」


 ソフィアはその場で飛び上がる。膝を折り曲げ、対魔剣の剣身の腹を足の裏に合わせ、下半身を抱え込む形となる。対魔剣の両端を手で押さえる。

 コルベッリの拘束は、走るという動きの制限。走る以外の動きは制限されない。歩くことも座ることも、ジャンプすることも。

 ソフィアの合図で魔法士が風魔法の略式詠唱を済ませていた。


「エアカッター!」


 魔法士から放たれた鋭い風はソフィアの対魔剣の腹に当たる。剣の刃であればエアカッターを切り裂いていたが、腹で受けることにより魔法の勢いを殺すことはない。

 後方から風魔法を受けたことにより、前方に向けた力が生まれる。


 同時にソフィアは剣先を抑えていた左手を離し、風魔法を受けた剣の腹を畳んでいた下半身を解放しながら蹴ることでさらに爆発的な速さで前方へ飛ぶ。

 コルベッリに容易に近づけないのは、動きの制限と攻撃魔法を織り交ぜてくるからである。すでにコルベッリに向かって飛んでいるソフィアを止めることはできない。


「っ! 『剣をふ――、』」


「遅い!」


 コルベッリは予想していなかったソフィアの動きに面食らう。すぐに剣を振るう動きを制限しようと試みるが、間に合わない。

 予想外の動きに判断を下すまでにワンテンポかかってしまった。制限するには言葉を紡ぐ必要があった。


 コルベッリの拘束魔術の弱点は意表を突かれることと、言葉を紡ぐ時間差。

 だからこそ一度しか通用しない作戦なのだ。これを失敗すれば次は簡単に対処されてしまう。

 加えてこれまでコルベッリの使用してきた魔法は火を中心としたもの。火系統の魔法は防御に向いた魔法はないのだ。


「(これは防げないでしょうね)」


 間合いに入ったソフィアは剣を振るう。狙うはコルベッリの首。

 大きな音が鳴る。ソフィアはコルベッリを過ぎたあたりで受け身を取りながら地面に着地する。


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『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~』


書籍化決定!第1巻【10月8日(土)】発売!

コミカライズ進行中!

詳しくは作者マイページから『活動報告』をご確認下さい。

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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 凄く面白くなりそうな気がするんだけど、ストーリーガバガバ過ぎる。 隻腕とかにする必要ないと思う。
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