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202/203

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ご無沙汰しております。すずすけ でございます。


いつも拙作を応援していただき誠にありがとうございます。

先週は投稿をお休みしてしまい申し訳ございませんでした。

かくかくしかじかありまして投稿どころではありませんでしたので……。


すみません。前書きが長いのもアレですので短くお伝えいたします。

次回で第5部2章が最終話となります。

すでに予約投稿しておりますのでご安心ください!


それでは、本編をお楽しみください。

すずすけ


「本当に帝国の女は理解できないわ。他人の腸を嬉々として首に巻いて『愛を感じますの』だなんて、イカレた女ね」


「それは貴女が愛を知らないだけですわ。私はその者の内面を見ているのです。臓物の鮮やかさや濁りはその者がどのような食を取っていたのか、不摂生な生活をしていたのかそれとも自身を律した生活をしていたのかを知ることができる。骨や筋肉、腱はその者がどのように身体を動かしてきたのか、どのような修羅場を潜ってきたのか、酒場で饒舌に話される下らぬ武勇伝よりも雄弁に語ってくれるのです。はぁ……、嘘偽りのない内面を感じることこそが愛を感じることなのです。鮮血を愛し、臓物を愛し、角張った骨を愛し、筋肉を愛す。皮膚で作られた袋の中には様々な愛で満たされているのです」


「……」


 マーレは何も言わない。言っても意味がない。

 そしてアインもまた沈黙している。


 いや、正確には気力がなかった。

 アインは生きている。生きながらに壮絶な痛みを幾度と味わった。


 そして自身の臓器、四肢の肉、骨が目の前に並べられ弄ばれている。その光景が少年の心を折るのは容易なことである。


 最初は激痛の中でも激しい恐怖を感じた。

 それも当然である。自身の臓器をその目で拝むのだから。そしてそんな痛みの中でさえ易易とは死ねない。


 治癒魔法によって傷を癒やされる。開かれた腹部が閉じられる。

 痛みで意識が飛んでも、力ずくで現実に戻されてしまう。


 逃げ場のない恐怖と激痛と絶望に徐々にアインの精神は摩耗していき、そして最後には砕かれた。

 今のアインはそんな成れの果て。生きながらに死んでいる。


「そろそろよさそうですわね」


 マーレが強引にアインの口を開け、残り一本となっていた最後の歯を引き抜いてもアインは反応しなくなっていた。

 そんなアインを見て、エンカーレは頃合いだと判断した。


「幼い君にしてはなかなかに粘ったのね。幼い君に対して何も期待しなくなったこのレディである私でもさすがに今の幼い君に対しては敬意を払うわ。紳士らしく果てたわね。私は誇らしく思うわ」


 血染めの道具を台座に戻し、タオルで手についたアインの血を拭うマーレ。


「あとは帝国の女に任せるわ。エンカーレ、幼い彼は紳士となって果てたの。その功績を考えて、あなたの魔術をもってしっかりと彼のあるべき姿に変えてちょうだい」


 アインの引き抜かれた歯を口に含み恍惚の表情で飴玉のように舐め転がしていたエンカーレだが、マーレの言葉に白けてしまった。


 口に含んでいた歯を、まるで喉に絡んだ痰のように吐き出すと、憎々しげにマーレを睨んだ。


「私のこの力を魔術だなんて、下賎な言葉で言わないでくれるかしら! これは神のご加護なのよ。神から与えられた加護の力を貴女のところの猿真似と一緒にしないでちょうだい。剣を振るうしか能のないあの男のものならまだしも、私のものは決して違うのだから!!」


 一頻りヒステリックに叫んだあと、咳払いを一つして冷静さを取り戻したエンカーレ。


「王国の悪党程度に加護の力を理解できるとは思っていませんでしたのに、こんなにも激昂してしまうとは。私もまだまだですわね」と自省した。


 エンカーレは首にアインの腸を巻き付けたまま、廃人となったアインに両手をかざす。


「御覧なさい、王国の悪党。これが神のご加護の力です」


 そしてエンカーレは紡いだ。


「限定解除『六根転変』。神の力をもって、貴方の魂をあるべき姿に変貌させましょう!」


 黒く禍々しい光がアインの躯を包み込む。

 包みこんだ黒いモヤはグニャリと形を変え獣のような姿に一度なると、そのまま変化する。


 黒いモヤの獣の姿から赤黒いモヤに変わると、それは小さくなっていき、コロンと椅子の上に一つ礫が落ちた。


「至りましたわね、神の礫に」


「……魔石」


 椅子の上に転がった石を前に、エンカーレとマーレの二人の呼び方はそれぞれ異なった。


「……ひどく醜い魔術ね。リディア様とは大違い」


 マーレの呟きをエンカーレは当然のように無視した。





「なあ、リディア。問題だ」


 ドリスが去ったあとの一室。

 そこにはゾインとリディアの二人が残っていた。

 リディアはドリスが座っていたソファに、ゾインと向かい合うようなかたちで深々と腰をおろした。


「どれほど狩っても絶滅する恐れのない動物はいったい何か、お前は分かるか? うん?」


 リディアは水差しからグラスに水を注ぐと、一気にそれを呷る。


「おいおい、くだらないことを聞くんじゃないぜ、まったく。簡単すぎる問いだ」


 リディアはグラスをテーブルに置いて答えた。


「答えは、人間」


 リディアの答えを聞き、ゾインは小さく笑みをこぼした。


「さすがに簡単すぎたか。……まあ、これでお前が魔獣だなんて答えていたら、私はお前への評価を下方修正するところだったがな」


 ゾインは葉巻を取り出して口に加える。

 葉巻の先に人差し指を添えて火をつけると紫煙をくゆらせる。


「では、これはどうかな? なぜ人間を殺してはならないか。これの答えはどうだ?」


 ゾインは試すような口ぶりでリディアを見た。

 今度は答えに詰まってしまうリディア。

 一瞬口を閉ざしてしまった彼女に笑みを浮かべたゾインに、リディアは不快感を覚えた。


「人間を殺してはいけない理由、か。そんなもの……、いや、知らねえな。殺しちゃだめだから殺しちゃいけねえんじゃねえのか。ったく、考えたこともないことを聞くんじゃないぜ。そんなことを問いてくるあたり、お前の性格の悪さが出てんのさ」


 ゾインから顔を背けるようにしてぶっきらぼうに答えたリディア。

 彼女は答えにもなっていない自身の答えに、苛立ちを覚えた。

 しかしゾインの反応は彼女の思っていたものとは違った。


「ほう……。まぐれではあろうが、正解するとはな。さすがはリディアだ」


「はあ?」


「正解だ。人を殺してはならない理由、それは人を殺してはならないからだ」


「……。なんだ? 今度は頓知にでもハマったのか?」


 ゾインは煙を口に溜め、その香りを楽しんでから吐き出す。


「いいや。頓知でも冗談でもなく、私はそう考えている。人が人を殺してはならない理由は、それを法が定めているからに過ぎないからだ。つまりは『殺してはならぬ』から殺してはならないのだ。ではなぜ、法はそれを定めている?」


「……」


「それは遥か昔の名残だ、リディア。人の数がまだ限られていた時代。人の数がそのままコミュニティの力を示していた時代。労働力に武力、文化の発展は人の数に比例した。だからこそ有限な人の数には殺害を禁止するだけの、禁忌とするだけの価値があったのだ」


「続けろよ。あたしはお前に口を挟めるほどの考えを持っていない」


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