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ご無沙汰しております すずすけ でございます。
ここまで長らくお付き合いくださりましてありがとうございました。
おそらく残り二話ほどで『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師』第四部も完結すると思います。
また、第四部完結後少しの期間、例のごとく休憩期間をいただきたくございます。
勝手ではございますが、お待ちいただけると幸いにございます。
それでは本編をどうぞ。 すずすけ
「ははは。本当にあなた方は面白いですね。見ていて飽きません」
和やかに夕食が続く中、執事の一人がアラベッタに近づいて耳打ちをした。
「なに? カンザスがここに来たのか?」
「はい、アラベッタ様。すでに屋敷の入り口まで来ていらっしゃいます」
「すぐにここに通してくれ」
「かしこまりました」
執事が静かにダイニングを離れた。
「カンザスさん、エリアスに来ていたんですね」
執事とアラベッタの会話が聞こえていたエインズが彼女に目を向ける。
「届いた文を見れば近くここに来ることは分かっていたが、それでも早すぎる。あの男のことだ、不気味さを感じるよ私は」
「そうですか? 僕はすごく優しいとしか思いませんでしたが。……怒った時は大変でしたけど」
長時間の説教を思い出したエインズは、遠くを見るような目で呟く。
「嫌味なやつだったでしょう? 昔からカンザスはそういうやつだったのです」
エインズとアラベッタが話している中、廊下からダイニングにつながるドアが開かれた。
「いま私の陰口を言っていたのかな、アラベッタ? それにエインズ殿も」
「カ、カンザスさん。お久しぶりです」
上品な装いをしたカンザスがタイミング良くダイニングに入ってきた。
「お久しぶりですね、エインズ殿。エリアスでは色々と大変だったみたいで、王都にも聞こえてきましたよ」
「僕のせいじゃありませんからね」
カンザスはエインズとアラベッタとの間の椅子に腰かける。座ったタイミングで執事に食事を尋ねられたが、すでに食事を済ませていたカンザスは紅茶を注文した。
「アラベッタも、本当に久しぶりだね」
「そうだね、お前は田舎が嫌いなのか、なかなかこんな辺境には足を延ばさなかったからな。会うのは王都ぶりか?」
「会って早々皮肉はよしてくれ、アラベッタ……。私も疲れているんだ」
少ししてカンザスの前に紅茶が差し出される。
香気を放つ紅茶の香りを楽しんだカンザスは一口紅茶を含んで味を楽しんだ。
「私がここに来たのは君と話がしたいと思ったからだよ、アラベッタ。これを味わった後に私と君の二人だけで話をする時間が欲しいんだがどうだろうか?」
「それが目的でここまで来てくれたんだろう? ならば話をする時間くらいは取ってやるさ」
「ありがとう」
アラベッタの口ぶりをからして、カンザスとの関係がフランクで友好的なものだと窺える。
優雅に茶を楽しむ二人の貴族を前にエインズは嫌でも自身の振舞いとの違いを感じる程に品格の違いがそこにはあった。なにせエインズの視界の隅にはタリッジが見えているのだ。
「エインズ殿はエリアスに来られてどれくらいになるのでしょう。満喫できましたか?」
「ええ。色々と巻き込まれましたけど、生活はアラベッタ様によくしてもらっていたんで、食べ物も堪能しました」
その言葉にアラベッタが表情を柔らかくして答える。
「それはよかったです」
そんなアラベッタの表情をちらりと見たカンザスが続けてエインズに話しかける。
「それでエインズ殿のこの後の動きは? どこかに向かわれるのですか?」
エインズは「うーん」とうなりながら答える。
「正直なところ、まだ決まっていないんですよね。ただ、どこに向かうにしろ北に進まなければいけないので、一度王都に寄ると思いますよ」
「そうですか。でしたら私と一緒に王都へ帰りませんか? 丁度馬車もありますので、のんびり帰ることができますよ」
「それは助かります。思った以上に行きの道のりが辛かったものですから、帰るとしても馬車を借りようと考えていましたから」
エインズの言葉にソフィアが静かに頷く。
「では明日のうちにでもご一緒いたしましょう。私はこの後アラベッタと話がありまして、明日もきっと日中は彼女と調整が必要になりますので」
「わかりました。ソフィア、タリッジ。明日はエリアスのお土産をたくさん買いに行くよ! 街の復興のためにもお金を落とさないとね!」
タリッジが手を止めてため息をついた。
「それ、お前がただ買い物したいだけだろ? なんで俺がそれのお守りをしなきゃいけねえんだよ」
「貴様、エインズ様がそうおっしゃったのだ。これは決まり事で貴様に意見する権利はない。せいぜい明日は良い荷物持ちに専念することだな」
再度ため息をつくタリッジ。
空いたカップを置いたカンザスはアラベッタにアイコンタクトを飛ばし、立ち上がる。
「君の書斎でかまわないよ?」
「中はボロボロだが、相手がカンザスならかまわないだろう」
「?」
アラベッタの言葉に疑問を浮かべるカンザスだったが、アラベッタが「こっちだ」と案内するのでそれにただ従ってついていった。
書斎に案内されたカンザスは、その中の様子に呆気にとられてしまった。
エリアスの領主の書斎がこんなボロボロで良いわけがない。割れた窓は木の板で雨風を防いでおり、室内灯が壊れてないために燭台がそこらに設けられている。
「なにがあったんだい?」
カンザスはアラベッタにすすめられてソファに腰を下ろした。
「ここがリディアとの闘いの場になったんだ。見苦しいが我慢してくれ。ここならば邪魔は一切入らない」
「なるほど」
水差しとグラスを二つ持ったアラベッタがカンザスに向かい合う形になって座る。
アラベッタはカンザスのものと合わせて二つのグラスに水を注いで一つを彼に差し出した。
「ありがとう」
「……単刀直入だが、話というのはあの手紙の内容についてだろうか?」
切り出したのはアラベッタ。
燭台のみの明かりということもあり、書斎の中は薄暗い。
「そうだね。エリアスの復興について、ブランディ領は手厚く援助しようと思っている」
「旧友の申し出、個人的にそれは素直にありがたい。……が、これは王国で起きた事件だ。そして相手が『次代の明星』ときた、責任を取るのは私と王国のみのはずだ、それがどうしてカンザスが介入してくる?」
エリアス復興の支援は王国の財源から当然出るため、好き好んで他領に支援する貴族などいない。
「エリアスは王国の唯一と言って良い港湾都市だ、その重要性は計り知れない」
「だから有難くも、復興に王国の財源の一部が割り与えられるのだろう?」
カンザスの考えなど、アラベッタはもちろん国王であるヴァーツラフも王国中枢の貴族も理解しているところだ。
「それはあまり当てにしないほうがいい、アラベッタ。長続きはしない」
カンザスが首を横に振りながらあっさりと答える。
ハイファンタジー作品を投稿いたしました。
少年の成長物でございます。
タイトル
『竜騎士 キール=リウヴェール』
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ぜひ気分転換がてらにお読みいただけたらと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。