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【第5部完結】隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~  作者: すずすけ
第4部2章 右腕が掴むもの

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「エインズ殿、止めてください。別に私は責めていません、むしろ感謝しています。私含めここにいる皆を、そしてエリアスの住民をあの『次代の明星』から守ってくれたことに心からお礼申し上げる」


 深々と頭を下げるアラベッタ。


「あれ? 怒っていないのですか? そうですか、それならよかった。アラベッタ様、後になってやっぱり弁償させるとか言ってきてもだめですからね」


「安心してください、エインズ様。このソフィアが言質を取りました」


 アラベッタたちの緊迫とした空気と正反対にあっけらかんとしたエインズの様子に思わず吹き出してしまうアラベッタ。


「ふふふ。その様子だと、本当に無事に終わったようですね」


「ええ、まあ。逃げていってしまいましたけど」


「十分です、エインズ殿。『次代の明星』のそのトップの顔をこの目に焼き付けられたのですから。これ以上の収穫はありません」


 アラベッタの後ろで、不安に身体を寄せ合っていた使用人たちも状況の整理ができたようで顔のこわばりも解けた。


「タリッジ殿も、感謝する」


 頭の後ろで腕を組んでいたタリッジは眠気も随分と覚めたようで、目をはっきりと開けていた。


「別になにもしてねえから感謝はいらねえよ。それよか眠気が覚めちまったせいで小腹が空いた、なんか食いもん貰えねえか?」


「タリッジ……、貴様というやつは」


 大きく腹を鳴らすタリッジに呆れかえるソフィア。

 それを、エインズとアラベッタは顔を見合わせながら笑ったのだった。





「ダリアス様……、あつい、です……」


「なんだルベルメル、もうへばっているのか?」


「だって、もう……、全身があつくて……。頭もぼーっとしています。……はぁ」


「情けないやつだ。それよりも僕はこの窮屈さが堪らない。少し、キツすぎやしないか?」


「そうですか? はぁ……、ダリアス様だって、この方が嬉しいくせに」


「いいや、広い方が良いに決まっているだろう。全然身体がほぐれないじゃないか」


「それだと料金が高すぎるのですよ。はぁ……」


 一仕事を終えたダリアスとルベルメルは、エリアスを離れ今はキルクへ戻る道中の浴場で汗を流している最中だった。


 湯けむりに視界がはっきりしない中、二人は狭い一つの浴槽に浸かっていた。

 ルベルメルらの生活における費用は『次代の明星』から支給されている。途中、稼いだ金銭もあるが、それでも渡された金銭でやり繰りをしなければならず節約すべきところでは節約を徹底していた。


「ここはケチるところではないだろう。臨時収入もあったんだ、ゆったり湯に浸かって疲れを取ったほうがいいだろうが」


「いいえ、汚れを洗い落とすためでございますダリアス様。疲れはベッドで寝て取るものですよ。……もっとも、私とベッドが一緒だとダリアス様は休まらないかもしれませんが」


 ルベルメルは熱い湯に頬を赤らめながら「ふふ……」と小さく笑う。

 それを鬱陶しそうに舌打ちするダリアス。


「決めた、今日は絶対に二部屋取るからな。寝る間際までお前の顔を見るのが憎たらしい」


「そんな寂しいこと言わないでください、ダリアス様。……それともダリアス様、寝込みを襲う方が好きなのですか?」


 ルベルメルは湯の熱さにとうとう我慢ができなくなったようで、浴槽から出て椅子に座って火照った頬を手で扇ぐ。


「あー……、そうだな。たしかにそうだ。だから二部屋取って、僕がお前の部屋に行くのを待っていてくれ」


 対して湯加減が平気なダリアスは思ってもないことを並べて、一人部屋でのんびり寝たいがためにルベルメルに二部屋取らせる魂胆だ。

 しかし、熱さで頭が回っていないルベルメルはそんなことに気づいておらず嬉しそうに頬を緩めた。


「そうですか、そうですか。ダリアス様も、私で慣れてしまうと後が退屈に感じて大変になってしまいますよ? ……うふふ、そうとなればしっかりと身体を洗わなければいけませんね」


 全身に走る蛇のような模様、服を着ていた時には一切見えなかったルベルメル専用の魔法術式痕を堂々ダリアスに見せながら再度浴槽に入った。


「おい、やっと多少は広く湯に浸かれると思ったのに戻ってくるな。それに、慣れるもなにも僕はお前に何もやっていないだろう」


 元は貴族の身分だったダリアスだ。食に関しても酒に関しても舌は肥えている。当然、女性においても多くの令嬢を目にしているのだ、目も肥えてしまっている。彼にだって好みがあり、当然相手も選ぶ。


 浴場においてはこうしてルベルメルと裸の付き合いをしてしまっているが、だからといってダリアスはルベルメルと男女の関係を持ったことはない。


「ダリアス様はないでしょうけれども……」


 ルベルメルは狭い浴槽の中でダリアスの腕にくっつき、その柔らかい肌を密着させる。


「お、おい! ただでさえ狭いんだ、くっつくな」


 必死に抵抗するダリアスの身体を押さえ、ルベルメルはダリアスの耳に口を近づけて色っぽく囁く。


「ダリアス様の快楽に歪む寝顔……、かわいかったですよ……」


「お、おおお前! 何をして……、本当にナニをしているんだ! くそっ、いいから離れろ!」


「うふふ、ダリアス様ったら……。触るならもっと優しく触ってください、もしくは痛めつけるつもりならもう少し強く」


 バシャバシャと激しく湯が波打ちながら浴槽からこぼれていく。

 そんな中、ルベルメルが右耳にしていたイヤリングが激しく光る。


「っ! なんだこの光」


「おやこれは……。いつぶりですか」


 眩しさに目を閉じてしまうダリアスを横に、冷静に状況を理解しているルベルメル。

 そんな二人が入った狭い浴槽に、大きく音を立ててもう一人飛び込んできた。


「急になんだ! おい、ルベルメルどうなっている!」


「落ち着いて下さいダリアス様。敵の襲撃ではありませんよ」


 激しい光が落ち着いたルベルメルのイヤリング。湯の中から息苦しそうに女性が勢いよく顔を出してきた。


「ぷはあぁ! ゲホッ、ゲホッ。くっそ、水飲んじまったじゃないか。どうしてこんなところに出てしまったんだ?」


 浴槽の湯を飲んでしまいむせる女性。


「お久しぶりです、リディア様」


 むせて咳をするリディアを冷静に見やるルベルメル。彼女の耳についた、激しい光を放ったイヤリングはリディアの耳にもまったく同じものがついていた。


ハイファンタジーの新作を投稿いたしました。

少年の成長物でございます。


タイトル

『竜騎士 キール=リウヴェール』

https://ncode.syosetu.com/n6657ia/


ぜひ気分転換がてらにお読みいただけたらと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。


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