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皆様いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。投稿の間が空いてしまい申し訳ございませんでした。先日まで床に臥していたところでございまして、今もホテル療養中でございます。
おそらく年越しはひとり寂しくホテルの中で迎えることになるでしょう……。今は症状も大分と落ち着いたものになりましたので執筆が出来る状況でございます。前のお話から時間が空いてしまいましたが、再び皆様に楽しんでいただけるようなお話を書いていきますので応援のほど宜しくお願いいたします。
すずすけ
「「っ!?」」
息をのんだのはアラベッタとソフィア。
タリッジはただ眠そうに瞼をこするだけ。
「その顔は知っているみたいだな。無駄な説明をしないで助かったぜ」
ソファに座るアラベッタとその横に立つエインズの二人に近づいていくリディア。
ソフィアは帯剣している剣に手をかけたままリディアの様子を窺う。
コルベッリと対峙しているソフィアは『次代の明星』に連なる者たちの実力をおよそ理解している。今ソフィアの目の前にいるリディアは実力者が集まる『次代の明星』のトップというのだ、軽率な動きはみせられない。
「ここに来たのには訳があってね、そこの魔術師に挨拶をと思って。同じ魔術師どうし仲良くしたいものさ」
不敵な笑みを浮かばせるリディアに、エインズは眉間にしわを寄せる。
「また君たちか。ルベルメルさんは面白い魔法を使っていたけど結局は魔法士だったし、その前に会った男なんかはそこらの魔法士となんら変わらなかった。僕には君たち魔法士と仲良くする理由はない」
エインズはリディアに身体を向けて「魔術を馬鹿にするのもいい加減にしてほしいね」とため息をついた。
「たしかに。『次代の明星』に連なるやつらは皆、あたしたちで言うところの魔法士だ。個性的な魔法を使ってはいるけど、その域から出ることはない」
笑みを浮かべているリディアと対照的にエインズはひどく不愉快さを覚えていた。
あと少しでアラベッタが魔術に目覚めていたところだったのだが、リディアという邪魔が入ったからだ。
アラベッタに魔術という力に興味を持たせるためにエインズは言葉でお膳立てをした。エインズ本人からすればどうでもよいことでも、心が折れたアラベッタを勇気づける言葉を並べて。
鉄は熱いうちに打て。このタイミングこそがアラベッタにいらぬ邪推をさせずに問答へ持っていける時機だったのだ。
何も知らぬリディアには幸いだったのが、エインズがまだアラベッタに対して問答を開始していないこと。
仮にリディアが問答の最中に声をかけてきたならば、問答無用でエインズは実力を行使していただろう。
それでもリディアに対して快く思っていないことに違いはないのだが。
「まるで君は彼女らと違って魔術師だと言いたいみたいだね」
「ありゃ、信じてくれていないみたいだな。あたしが魔術師だと信じさせれば仲良くしてくれるのか?」
「信じるも信じないも、魔術師ならば魔術師たる言動をもって証明すればいい。できないのなら今すぐにでも帰ってくれるかな?」
エインズには珍しく苛立っているのが見て取れる。
どうすればエインズに証明できるか、リディアは頭をひねり思案する。
少しして何か思いついたようにリディアは真っすぐエインズを見て口をひらいた。
「魔術師ならば分かる質問を一つ投げよう。別にこれには答えなくてもいいぜ?」
「早く言いなよ。答えるかどうかは僕が決める」
「お前の制約、教えてくれないか?」
「……」
リディアの問いにエインズは黙して答えたが、その眉は僅かに動いていた。
エインズの口から制約という言葉を耳にしていたソフィアは、リディアのその問いが何を意味しているのか理解し小さく息をのんだが、何のことか分からないアラベッタと無関心なタリッジは一切の反応も見せない。
「……なるほど。たしかに魔術師のようだ。でなければ魔術師相手にその問いはしないだろうしね」
溜飲を下げたエインズは一息ついて再度、今度はしっかりとリディアの姿をその目で確認した。
相手を邪魔な道化師ではなく、一人の魔術師として。
魔術を扱う者ならば、魔術を見せてくれる者ならば、それでエインズの欲求は事足りる。もちろんアラベッタが生み出す魔術に居合わせた方がエインズの満たされ方は格段に上なのだが。
「これで分かってくれたか? だったら、あたしと仲良くしようぜ!」
「はぁ。馴れ馴れしいね、君。もちろん魔術師仲間として友好は築こう」
「はは、ひっかかりのある言い回しだな。あたしたちと一緒に自分のやりたいことをとことん楽しもうじゃないか! 理性の奴隷になってちゃ面白いもんも白けてしまうぜ?」
同じ魔術師としてなのだろう、気を許したエインズは彼の肩に腕を回そうとするリディアをすんなりと受け入れる。
呆れた表情で肩を組まれるエインズに、当の本人は楽しそうに何度も頷く。
「待て! 貴様、エインズ殿を次代の明星に引き入れるつもりか!」
アラベッタが立ち上がりリディアに詰め寄る。
「別にいいだろう? エインズさんもこんなやつらがいる環境の中で過ごすよりも、あたしんところで過ごした方が有意義ってもんだぜ? お前で出来ることはあたしにだって出来る。お前に出来ないこともあたしなら出来る。どうだ? あたし以上の価値をお前はエインズさんに提示できるのか?」
一介の領主風情が、とリディアは結んだ。
「たしかに、君のような魔術師と一緒になって魔法や魔術を好き勝手に探求するのも悪くないかもね」
これまでなかなか魔術師に出会ってこなかったエインズ。たしかに彼と会う者のほとんどが魔法について魔術について、彼と同じ次元で話をすることができなかった。そこにエインズが僅かな不満も抱かなかったかと言えば嘘になる。
王城で知り合った魔術師も一人いたが、彼女はどうにもエインズを忌避しているようでまったく彼が求めるところの談義にならない。
本物の魔術師と魔術について話し合うほど楽しい談義もないだろうな、とエインズは思った。
「それじゃあ! いやー、よかったよかった。お前じゃ分かり合えない、みたいなことをさっき言われたからさ」
嬉々として喜ぶリディア。
対して控えるソフィアの表情は沈む。
「ただしさっきも言ったけど、それは魔術師としての君に対してだけだ。君らが群れている『次代の明星』には一切の興味はないしどうでもいい。それこそ、君以外の人間が僕の邪魔をしていたなら問答無用で黙らせただろうし」
「エインズ様……!」
魔法、魔術に興味関心があるエインズにとって、魔術師としてのリディアの存在に幾ばくかの価値を見出しているが、だからといって彼女が率いている次代の明星にエインズの食指が動くことはない。エインズの邪魔になるのであれば、つまりはそういうこと。
ソフィアは安堵の声をもらした。




