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皆様、いつも拙作をお読みいただき大変ありがとうございます。ご無沙汰しております すずすけ でございます。
大変遅くなりましたが、続編となる第4部を投稿させていただきます。
更新頻度は毎日とはいかず、ペースがつかめるまで週二回を想定しています。第4部に関する構想は出来上がっていますのであとは文字に起こすだけでございますが、遅筆の身でございますため皆様にはご迷惑をおかけいたします。
加えて、今回も誤字脱字が多々見られ、皆様にはご不快に思わせてしまう点も多々あると思いますがご指摘いただけますと幸いにございます。本作は皆様のご協力があって成り立っていると言っても過言ではございません。何卒、よろしくお願いいたします。
また本作にお付き合い下さると幸いにございます。
それでは、前書きはこの辺にいたしまして、本編をお楽しみください。
すずすけ
〇
「おい、ルベルメル。僕はどうもこの街が好かない」
「おや、どうしたのですかダリアス様?」
顔をしかめながら歩くダリアスの横を覗き見るルベルメル。
ダリアスはミニタオルで首元を拭うが、彼の覚える不快感はいまだ拭いきれない。
「どうしてここの風は肌にべたつくような気持ち悪さがあるんだ。それに臭いもだな、たまらん」
「くさい、ですか?」
「ああ、生臭い」
「ダリアス様は港湾都市が初めてでございますか?」
ルベルメルはダリアスが不快に感じた空気を胸いっぱいに吸い込み深呼吸をする。
ダリアスらは港湾都市に向かっている途中にある。
道も整備されてはいるものの、サンティア王国のような石畳まではいかない。土を押し固めたような砂利道が続いている。
二人は周りが開けた砂利道をぽつぽつと歩く。
周りに木々はなく、あっても葉をつけていない裸の幹ばかりである。なんとも殺風景な景色に生臭い風にダリアスは陰鬱な気分になってしまう。
「僕は初めてだ。父は何度か訪れていたようだが、僕は同行を許してもらえなかったからな」
同行を許してもらえなかったあの時はショックを受けたものだが、今となってはどうでもいいことだな、と嘲笑するダリアス。
やはり初めてだったかとルベルメルは小さく微笑んで自分の腕をペロリと舐める。
「ダリアス様、手か腕を舐めてみてはどうですか?」
「いきなりなんだ? 嫌に決まっているだろう汚い」
「あら、でしたら私の腕を舐めますか?」
黒く走る術式が刻まれた腕をダリアスの目の前に差し出すルベルメル。
ダリアスは眉間に皺をよせてルベルメルの腕を押しのける。
「お前の腕も僕と同じく汚いだろう。なんで僕がお前の腕を舐められると思ったんだ」
「乙女の柔肌を汚いだなんて、ダリアス様は女心が分からないのですね? さてはおモテになられなかったのでは?」
ルベルメルの軽口にダリアスは鬱陶しそうにため息をついて相手にしない。
「ルベルメル、戯言はいい。それで僕が、港湾都市が初めてだったらどうだっていうんだ?」
照れた様子もないダリアスに、ルベルメルは悲しそうに腕を引っ込める。
「港湾都市は海に臨んだ街です。吹き抜ける風は海からの潮風。ダリアス様が不快に感じられるのはその臭いとそこに含まれた塩によるものですよ」
「海、か。聞いたことはある。これが潮風というものか、僕は好きになれんな」
「海を見ずして嫌いというのは時期尚早ですよダリアス様。その広大な姿を見れば荒んだダリアス様の心もきっと洗われることでしょう」
「うるさい」
ダリアスは好きになれない潮風を我慢しながら砂利道を歩く。
海からの風が届いているのであれば、港湾都市もすぐそこまで来ているということだ。
もう少しの辛抱。街についてまずやることはこの肌のべたつきを浴場で洗い流すことだな、とダリアスはミニタオルをポケットにしまいながら決める。
「それにしてもどうして僕たちは港湾都市に向かっているんだ? そこには何がある」
「海を臨んだ港湾都市は貿易の中心地。他国から流れてくる食料や物品などは、その多くは港湾都市を経由してサンティア王国に入ってきます」
サンティア王国商業区に館を構える商人のほぼ全てが商品を受け取るため、足繫く港湾都市を訪れている。
つまりそれだけ物の行き来が盛んに行われていることを意味する。
「お前たち『次代の明星』の目的はそこにあるのか?」
「私たち、だけではありませんよ。ダリアス様も『次代の明星』の一員なのですから」
「……どうにもまだ慣れんな。まだルベルメルとしか会っていないというのもあるが」
「慣れてくださいダリアス様。あなたは自分の意思でこちらに来たのですから」
二人が歩き続けていると徐々に建物が並び立つ街の姿が見えてくる。
「私達の目的は貿易が盛んに行われている港湾都市の麻痺にあります。港湾都市の麻痺はそのまま国内における物品や食料の不足に繋がります。加えて貿易相手の他国との結びつきも弱くなる。それらによって生まれる市民の不満はつまるところ現国王へ向かうことになるでしょう」
「王家権威の失墜につながるか。そうなればさらにお前た——、僕たち『次代の明星』は国内で混乱を起こしやすくなる、か」
原理としては理解できるダリアスだが、一般市民の生活とはかけ離れた裕福な暮らしをしてきた彼である。どのような不満が生まれ、混乱に陥るのか想像がつかない。
現国王のヴァーツラフ国王は、こんな卑劣な策を打つ『次代の明星』をこれまで抑え込み、国内の安寧を維持し続けてきたのだ。王族として、その体力はかなりあるのだろう。
いや、完全に抑え込めていないからこそ、今のダリアスやルベルメルのように国内各地で策動してしまっているのか。
ダリアスが思う以上に、ひそかに国内に混乱の種は撒かれているのかもしれない。
「だがそれだけ大きな画策、僕たちだけでできるのか?」
「都市には今回の協力者がいます。到着してまずは彼らと対面するとしましょう」
関所が近くなり、ルベルメルは上着を羽織り、露わになっていた腕に刻印された術式を下に隠した。
潮の臭いが徐々に強くなっていく。
ダリアスが『次代の明星』に連なって初めての仕事である。その若干の緊張と、初めて訪れた街に対する高揚感、肌にまとわりつく潮風の不快感など、様々なものが入れ混じった初めての感情を持った。
関所の前では検問を待つ列ができていた。
ダリアスとルベルメルもおとなしくその列に並ぶ。ここで無為に騒ぎを起こす必要もない。
だが検問もかなり適当なもので、荷物の確認は基本的に口頭のみ。荷馬車の場合に初めて中を確認する程度。
体裁を取り繕っているものの、中身を伴わない杜撰なもの。だからこそ、危険人物であるルベルメルもこうやって呑気に列に並んでいられるのだろう。
「なんであれ僕はいち早く浴場でこの不快な身体を洗い流したいだけだな」
「あらあら。ダリアス様ったら、また私と一緒に身体を洗い流し合いたいのですか? やっぱり私の身体は初心なダリアス様にはちょっとばかり刺激的過ぎましたでしょうか……」
わざと身体をくねらせるような動きを見せるルベルメルに、ダリアスは深く息を吐く。
「お前、本当にいい性格しているな。僕がソビ家の人間のままだったなら、今ごろお前は牢屋にぶち込まれているところだったぞ」
「でも今はもう、ただのダリアス様なのでしょう?」
「ああ、そうだ。だから、これはお前の軽口に合わせたただの戯言だよ。……僕たちの番のようだぞ」
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『隻眼・隻腕・隻脚の魔術師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~』
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